ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 131
「気をつけて行けよ」
「うん」
門番に手を振りながら、トランスロットとゆいは通用門を潜った。
通用門から真っ直ぐ奥に進むと魔道研、左に曲がるとお城、厩に行くには右に曲がる。
トランスロットとゆいが右に曲がって少し進む。
厩は馬を走らせるための広い敷地の中にぽつんと立っていた。
昔は馬は十頭程いたそうだが、貴族の横やりで今は数頭しかいない。
だからサウ一人だけでも切り盛り出来ていたのだ。
「おはようございます」
厩に入るなり、大きな声で挨拶する。
「おっ、来たな」
柵の中で作業していたサウが柵の中から顔を覗かせる。
「今日は少し遅かったな」
「うん、ちょっと途中であって」
トランスロットが何があったか説明した。
「モモエルの胸が・・・顔に当たって息が出来なくなった?」
大人の男性からしたら羨ましいシチュエーションのだが、子供のトランスロットからしたら迷惑でしかなかった。
しかも危うく窒息する所だったのだ。
「そ、それは大変だったな」
微妙な顔をしながらサウは労う。
「それで、身体の方は大丈夫か?」
「うん、少し休んだらなんともなくなったよ」
安心させようと少しはにかんだ笑顔を見せる。
「そうか、それならいいんだ。調子悪くなったら言えよ、無理するのは良くないからな」
ケットシーは猫の妖精だけあって、仕事より体調を優先する。
モノの考え方がホワイト企業体質なのだ。
「うん」
それからいつものように馬を外に出して厩の掃除を始める。
トランスロットもゆいも、だいぶ馴れてきてサウ程ではないが以前より早く身体が動かせるようになってきていた。
厩の掃除も終わり、馬の食事の世話をしてからお昼になる。
「トランスロットも少し馴れてきたみたいだから、馬車の練習してみるか?」
突然のサウの言葉に、トランスロットは食べていた食事の手を止めてサウを見上げた。
「いいの?」
「ああ、仕事頑張ってくれているからな」
サウが笑う。
「あ、ありがとう」
嬉しそうに笑うトランスロットの横でゆいが、
「よかったね」
と小さい声で一緒に喜ぶ。
「じゃ、お昼を食べたら少し休んで外に来い。その間に仕度しておくから」
サウは手早くお昼を済ませると、厩の裏手に向かっていった。
「よかったね」
二人きりになって、さっきより大きい声でゆいが喜ぶ。
厩にも随分通ってきているけれど、まだトランスロットと二人きりの方が安心出来るようだ。
「うん、ありがとう」
トランスロットはゆいの手を取る。
手を握るとゆいが喜ぶのでそうしただけだが、
「えへへ」
とゆいが笑う。
人との触れ合いにも馴れてきて、家ではミケラやサクラーノによく抱きついているが、ゆいにとっては一番はトランスロットなのだった。
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