転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その31
「あっ、いけね」
チャトーラが突然声を上げた。
「どうしたの兄ちゃん?」
チャトーミが聞くと、
「ここ、街から結構離れてるよな。姫様連れて今から帰ったら街に着くのは夕方過ぎちまうぜ」
ミケラを連れて強行軍は無理だ。
虎次郎が抱き上げても、あまり速く走ればミケラに負担がかかりすぎるし、タマーリンが着いてこれない。
「どうする?無理すれば夕方前に蹴れなく無いけれどタマーリンが着いてこれないぜ」
チャトーラの言葉に何を意味するかタマーリンは直ぐに気付く。
「わたくしは構いませんわ、のんびりと一人で帰りますわ」
「なら、俺も残りますよ。タマーリンには魔法の事をもっと聞きたいし」
武茶志がタマーリンと残る事に手を上げた。
「あら頼もしいナイトが残ってくれるのね、嬉しいわ」
タマーリンが武茶志に微笑みかける。
武茶志は咄嗟に手を上げてしまった事を後悔する。
「ダメッ、みんな一緒に帰らないとメッなの!一人で帰るのは寂しいからメッなの!」
ミケラのこの一言で振り出しに戻る。
ミケラには一緒に来たのだから一緒に帰るのが当たり前、置いて帰るなどという事があり得ないのだ。
皆もこの気持ちが伝わったのでミケラの気持ちを大事にしようと考えるが、中々良い知恵が出てこない。
「はい、はい」
クロが手を上げた。
「僕が元の姿戻って乗せて飛ぶのはどうです?音の10倍で飛べるのであっという間に着きますよ」
「却下だ」
クロの提案は速攻で否決された。
「何故です?」
「あんな馬鹿でかいもんが飛んできてみろ、街が大騒ぎになるぞ」
片方の羽だけで500メートル、身の丈は雲に達する巨体だ。
間違いなく街はパニックになる。
「でもその案は良い線いってますわよ、普通のドラゴンサイズに変身すれば良いのですわ。街から少し離れた場所に降りればそれほど騒ぎにがなりませんわ」
街の上空を年に数回、ドラゴンが通り過ぎるので普通サイズのドラゴンなら大騒ぎになる事はない。
「でも、普通サイズにドラゴンに変身すると皆さんと飛んでいる時の風から守る余裕はないですよ」
皆を乗せて飛んで、飛行時に起きる風で振り落とされる事を心配したのだ。
「そちらはわたくしが何とかしますわ」
その場で打ち合わせをして、何とか話はまとまった。
「じゃあ、変身するから少し離れて下さい」
皆がクロから離れ、安全な距離が取られるとクロの身体みるみる膨らんでドラゴンへと変貌する。
「それじゃあ皆さん、背中に乗って下さい」
クロの声が頭の中に響き、クロは身をかがめる。
武茶志と虎次郎が手分けして皆をクロの背中に乗せる。
クロの背中には皆がまとまって座れるほどのくぼみが有り、そこへと皆集まって座る。
「ウィンドプロテクション」
タマーリンが風避けの魔法を発動させた。
「それじゃ飛びますよ」
クロが翼を羽ばたかせると巨体がゆっくりと宙に持ち上がり、前へと進み始める。
最初はそれほど速くはなかったが、次第にスピードが上がり、やがて下に見える草原の景色が矢のように流れる。
「速い、速い」
ミケラは手を叩いてきゃっきゃっと喜ぶ。
「こんなに速く飛んでいるのに全然風を感じないなんて凄い」
チャトーミが驚きを口にする。
「本当だな、武茶志相手に結構派手に魔法を使った後にまだこれだけの魔法を使えるなんて、本当にタマーリンて凄いんだな」
チャトーラもタマーリンの魔力の底なしぶりに驚きの声を上げた。
通常なら高笑いの一つもあげるところだが、高速で飛ぶドラゴンの背中にいる皆を守るのに精一杯でタマーリンはそんな余裕はない。
いつもは平然と何事もこなすタマーリンの額に、うっすらと汗を浮かんでいたのだ。
その御陰で、ミケラ達はクロの背中で快適に過ごす事が出来た。
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