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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 127

 渋るサクラーノとミケラをなんとか納得させて家を出た。

 トランスロットとゆいは厩へと向かうため、大通りへと出て歩く。


 大通りの商店は朝から多くの店が開店していた。

 朝から人通りが多く、ついでに買い物をしていく住人がいるからだ。


「おはよう」

「おはよう・・・ございます」

 あちこちの商店から声をかけら、返事を返すトランスロット。


 トランスロットは、小さい頃からロレッタに連れられて歩き商店の人とは顔見知りなのだ。

「ゆいもおはよう」

 ゆいの顔も、覚えられてきていた。


「お、おはよう・・・ございます」

 相変わらずぎごちなく返事を返すゆい。


 最初の頃は、トランスロットの影に隠れてしまって挨拶も返さなかったのが、挨拶が出来るようになったのは進歩だろう。


 挨拶しながら大通りを抜け、城門の前まで来るとそこで右に曲がり、城壁沿いの進むと通用門がある。

 それが毎朝の厩への通勤ルートだった。


 通用門の少し前に、モモエルがふらふらと歩いているのを見つけた。

「モモエル、おはよう」

 トランスロットは早足で近寄ると、モモエルに挨拶をする。


 モモエルはトランスロットが気軽に声をかけられる、数少ない大人なのだ。


 生まれたばかりのミケラがやって来た後、一家の面倒を見るように命を受けてやって来たのがモモエルだった。

 なんだかんだと言いながら、一家の生活の面倒を見てくれたモモエルは家族同然だった。

 トランスロットにとって、もう一人の姉のような存在なのだ。


「あら、おはようトランスロット、ゆい」

 トランスロットの声に振り返り、眠そうな顔をしてモモエルが立ち止まる。


「今日、来なかったね」

 ミケラが家に戻ってきて以来、ミケラの顔を見るために毎朝来ていたのに今朝は来なかったので聞いてみた。


「今日は朝から会議だから、さっきまでその資料を作っていたのよ」

 ただでさえ忙しい身なのだから、会議の資料作りなんて部下にさせればいいのに、自分が出来る事はつい自分でやってしまうのがモモエルだった。

 代わりに出来ない事は、全部周りに丸投げなのだったりするけれど。


「ふ~~ん」

 トランスロットにはよく判らなかったので、曖昧に返事をする。


 そして、事件はそこで起こった。


 唐突にモモエルは目眩がして、咄嗟に近くにいたトランスロットにしがみついたのだ。

 突然、モモエルにしがみつかれて驚くが、なんとか倒れまいと踏ん張る。

 頑張れ男の子。


 しかし、モモエルのそこそこ豊かな胸がもろに顔面に押しつけられて、鼻と口を塞いでしまう。

「もがぁ」

 慌てるトランスロット。


                        (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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