ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 119
「わたしのも」
サクラーノも続く。
「ボクのも」
「予のもじゃ」
次々に差し出される皿。
「わ、わたしのも」
ゆいもおずおずとお皿を手にして出す。
「あらあら、お母さんこんなに沢山食べられないわ。少しづつ貰うわね」
お皿に少しづつ取り分けていく。
取り分けたのは少しでも、みんなから貰ったのでそこそこの量になった。
「それじゃあ、食べましょう。いただきます」
タマンサの合図で食事が始まった。
それを別のテーブルから見ながら、
「温かい家庭でしょ?」
自分の正面に座るタマーリンの問いに、
「う・・・うむ」
と答える白虎。
「わたくしはミケラ様の幸せが第一ですの、ミケラ様の幸せにこの家庭が必要ですわ」
タマーリンはロレッタの作ったお昼を突きながら、
「この幸せを守るためなら全力を尽くしますわ、その為に王都全てを吹き飛ばすことになったとしても」
タマーリンの顔は笑っていたが、その目は冗談ではないと強く光っている。
白虎は息を飲むと、
「わ、判っている。俺だってクッロウエル様にこの件は何も見ていないし何も聞いていないと約束したからな、誰にも言わない」
自分が、関わってはならないことに関わってしまったという実感を強くしていた。
目の前にいるタマーリンが本気だというのもはっきりと判る。
問題はタマーリンだけではないのだ。
ミケラの周りには神龍であるクロ、先日、砦で大活躍した虎次郎や勇者武茶士、魔道研のモモエルなど錚々(そうそう)たるメンバーが揃っている。
下手すれば国どころか大陸ごと滅ぼされかねない。
ここは知らぬ存ぜぬで貫き通すしかないのだ。
開き直って食事を楽しむ事にした。
「これ、美味しいな」
家庭料理と侮って口にして、思っていた以上に美味しくて驚く。
「ロレッタはお料理が上手ですのよ、我が家のメイドにも習わせたいくらいですわ」
タマーリンも頷く。
「白妙や黒妙、ここでこれ食べてるのか?」
「ええ、あの二人はロレッタに完全に餌付けされていますわ」
餌付けとはひどいい草だが、実際にそうなのだから仕方ない。
「え、餌付け・・・はははは」
白虎は乾いた笑いしか出なかった。
「ところで聞きたいんだが、俺をどうやって見つけているんだ?やはり魔法か?」
唐突に聞かれ、
「企業秘密ですわ」
と言う返事に、
「そうだろうな」
それだけで、その話は終わった。
実際は、タマーリンも今まではよく判っていなかったのだ。
魔力感知の精度を上げるとなんとなく違うモノの存在が判る程度で、後は経験と勘で補っていた。
広場で白虎を見つけたのも、半分、勘だったのだ。
それが・・・
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