ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 115
「ただいま」
「いま~」
ミケラとサクラーノが広場に戻ってきた。
「どこに行ってたんだよ」
とシャムタに聞かれて、
「えっと・・・あの・・・」
ミケラは目を逸らして口の中でもごもご言い、
「ビューンしてた」
サクラーノはもう言わない約束を忘れていた。
「ビューンて・・・お腹でも痛かったのか?」
シャムタの方が勝手に誤解してくれたようだ。
「うん、うん・・・お腹が凄く痛かったの」
「そう、凄く痛くて」
二人が同時にお腹を抑えて、痛かった演技をする。
大人がすれば白々しくも感じただろうが、そこは子供同士、
「二人一緒にお腹が痛かったてな」
通用してしまう。
「えへへへへ」
二人は笑って誤魔化す。
「二人一緒にお腹が痛くなるなんて、双子みたい」
別の子がそんな事を言う。
「双子?」
「違うよね?」
二人が顔を見合わせて、
「ね~~っ」
と頷き合う。
それは完璧なユニゾンだった。
ミケラの顔はおっとりとした顔立ち、サクラーノは活発そうな顔立ちをしていてほとんど似ていない。
性格もミケラは鈍く・・・のんびり屋さんで、サクラーノは思ったら即行動するタイプ。
性格も顔立ちもまるで違う二人なのに、一緒に行動すると双子と間違われる程息ピッタリなのだ。
「今度は何して遊ぶの?」
「遊ぼ~~」
二人が張り切っている所へ、
カ~~ン カ~~ン カ~~ン
お昼を告げる鐘が鳴り響いた。
「ミケラ、サクラーノ。お昼だから帰るよ」
トランスロットが声をかける。
「え~~っ」
これから遊ぼうと張り切っていた二人は、がっくりと肩を落とす。
「お腹空いただろ?」
と追い打ちをかけられて、
「お腹空いたね」
「帰ろう」
二人で相談をしてトランスロットの元に走る。
他の子供達も、帰り始めている。
「さっ、帰りましょう」
タマーリンもやってくる。
子供達は気がついていなかったが、タマーリンの姿がミサケーノが帰るのと一緒に見えなくなっていたのだ。
時はミサケーノが帰る時まで戻る。
「じゃ、またね」
手を振りながら帰るミサケーノに子供達の視線が集中していた。
それを逃さずに、タマーリンは子供達に厚い風の壁を作る。
風の壁によって光が屈折して、タマーリンの姿が子供達から見え難くなった。
完全ではないが、子供達の意識がミサケーノに向かっているので、効果は充分だ。
タマーリンは低く浮遊して更に風魔法を使って、建物の陰に回ると風の壁を解除した。
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