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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 113

「はい、頑張ります」

 ゆいが突然立ち上がって、信じられない程の大声を出した。


 その場にいた者達の視線が一斉にゆいに集まる。

 一番唖然としているのは、隣に座っていたトランスロットだ。

 目を大きく見開いてゆいを見つめている。


 みんなの視線を浴び、ゆいの顔が見る見るうちに真っ赤になり、大慌てでトランスロットの後ろに隠れた。


「どうしたの、急に大きな声を出したりして」

 後ろから自分の服の袖を掴むゆいの手に、そっと自分の手を添える。


「ナ・・・まが・・・ナナ様が、頑張れって言ってくれたような気がして・・・ううん、きっと言ってくれたんだと思う。わたしのこと見ていてくれているんだと・・・思う」

 最後の方はトランスロットの背中に自分の頭を押しつけて、呟くような声だった。


「きっとゆいのことを心配して、どこかで見ていてくれているんだよ」

 その言葉に、ゆいは顔を上げた。


「そう思う?」

「うん、そう思う。きっと、ゆいのことが心配なんだよ」

 なんの確証もなかったが、トランスロットはゆいを元気にしたい一心で言った。


「えへへへへ」

 笑うと立ち上がり、

「お、大きな・・・声を出して・・・ご、ごめんなさい」

 ペコッと頭を下げて、みんなに謝る。

 少しだけ成長したゆいだった。


 それからゆいはベンチに座り直すと、そっと身体をトランスロットの方に傾ける。

 トランスロットの方も、その身体を受け止める。

 二人はミサケーノの周りで騒いでいる子供達を、身を寄せ合いながら見つめて過ごした。


「さーてと、もうみんないいかな?」

 ミサケーノは子供達に聞く。


「うん、楽しかった」

「お姉ちゃん、ありがとう」

「あんなに高く跳んだの初めてだったよ」

 子供達に喜ぶ様に、満足げに微笑む。


「それじゃ、わたしは行くね」

 その言葉に、

「え~~っ」

 と子供達が一斉に声を出す。


「いかなで」

「いっちゃいや」

「もっと遊ぼうよ」

 子供達が一斉にしがみついてきて騒ぎになる。


「あらあら」

 流石に困り、タマーリンに助けを求める。

 

 さっきから頭の中でミケラとサクラーノが、


〈遊ぶ、遊ぶ。遊びたい〉

〈早く代わって〉


 と大騒ぎしてうるさくて敵わなかったのだ。

 早く変身を解いてしまいたいが、ここでは出来ない。


「ほらほらお姉さんが困っているでしょ、無理を言ってはダメよ」

 タマーリンが止めに入る。

「でも」

 子供達も困った顔でタマーリンを見上げた。


「また来てくれるとお思うのよ、その時にまた遊んで貰いましょう」

 優しく話し掛ける。


「また来てくれる?」

 一斉にミサケーノの方を見上げる。


「うん、くるくる」

 ミサケーノは目一杯の笑顔で頷く。

「本当に?約束してくれる?」


「約束か・・・」

 ミサケーノは少し躊躇う。

 本心ではまた子供達と遊びたいのだが、この身体は自分のものであって自分のものではない。

 一時的な偽りの身体なのだ。


                       (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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