ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 109
「はいはい、静かに。どっちがお姉さんでもいいじゃないの」
〈良くない〉
〈大事なこと〉
同時に返事が返ってきた。
二人にとっては、とても大事なことなのだ。
「じゃあ、あなた達はどっちがお姉さんなの?」
自ら、地雷を踏みに行くミサケーノ。
〈わたしがお姉ちゃん〉
叫ぶサクラーノ。
〈違うもん、同じ歳だから違うもん〉
ミケラが否定する。
〈三ヶ月早く生まれたから、わたしの方がお姉ちゃんだもん〉
〈同じ歳だから違うもん〉
いつものやり取りが無限ループで繰り返される。
頭の中で延々と繰り返され堪えきれなくなって、
「静かにしなさい!」
ミサケーノが切れた。
唐突の怒鳴り声に、周囲で遊んでいた子供達が驚いて固まる。
中には泣き出してしまう子供さえいた。
「脅かしてゴメン」
慌てて、泣いている子の所に行って謝るミサケーノ。
「どうなさったのです?」
子供達の機嫌取りに回るミサケーノの側に、タマーリンが寄ってきた。
周囲に子供達がいるので、何も言えないで子供達のご機嫌取りに回るミサケーノの姿を見て、タマーリンが呪文を唱えた。
「ミケラ様達ですのね?」
耳元で唐突にタマーリンの声が聞こえた。
子供達には聞こえていないようだ。
表情は変えずに、ミサケーノは小さく頷く。
「困ったもんだわ」
ミサケーノは苦笑いをする。
追い出せるものなら追い出したいところだけど、二人が存在するから存在が許される身としてはそれも出来ない。
そもそも、こうやって子供達と遊ぶ事なんてもう二度と出来ないはずだったのが、こうしてまた子供達と遊べるのだ。
感謝しかない状況なのだから。
「贅沢は言っちゃダメね」
諦め加減に溜め息をつく。
「いえいえ、ダメなものはきちんと伝えないとダメですわ」
諦め加減のミサケーノにタマーリンが一言釘を刺す。
「聖女として活躍したあなたにこんな事を申し上げるのはおこがましいかもしれませんが、嫌なモノは嫌と伝えるのが長い関係を続ける秘訣だと思いますの。あなたとミケラ様達は一心同体なのですから」
タマーリンの話を聞いて、ミサケーノははっと我に返った。
「そうね、あなたの言うとおりね。散々、人には偉そうなことを言ってきたのに、自分のことになるとまだまだね。人間、死んでからも勉強だわ」
『あなたが特別で、普通の人は死んだらそこで終わりなんですよ』
作者の心の叫びが響いた。
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