転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その29
「では描くモノも配ります」
タマーリンが腰に吊した小さなポーチから巻いた布の中から細い棒を二本取りだし、ミケラと武茶志にそれぞれ配る。
よく見ればそれは太めの鉛筆だった。
「こっちの世界にも鉛筆有るんだ」
武茶志が驚きの声を漏らす。
「鉛筆?それは何の事でしょう?」
声が聞こえたのかタマーリンが武茶志に聞く。
「俺の元いた世界にこれに似た筆記具があって、それが鉛筆って言うんです」
武茶志の説明を聞いて、
「文字を書き写す方法はどの世界でも似たような物になるのかもしれませんわね」
と興味深げに頷く。
「無駄なおしゃべりはここまでとして、始めましょうか」
タマーリンが一旦言葉を切り手を上げると、
「ミケラ様始めて下さい」
と静かに手を振り下ろした。
それからしばらくミケラと武茶志は紙とに鉛筆を走らせる。
「出来た」
先に絵を完成させたのはミケラの方だった。
「見て見て」
ミケラは出来た絵をタマーリンに見せる。
「まぁミケラ様、なんて可愛らしい絵なんでしょ」
タマーリンは感激の声を上げ、
「皆さんもおいでなさい、ミケラ様の描いた絵はとても可愛いんですよ」
手を振ってチャトーラ達を呼ぶ。
「何だよ、呼んだりして」
ぞろぞろとタマーリンの周りに集まってくる。
「これを皆さんご覧なさい、ミケラ様がお描きになった絵ですわよ」
ミケラの描いた絵をみんなに見せる。
「これが姫様が描いたのか、結構うまいじゃないか」
「そうだね、可愛く描けているよね」
チャトーラもチャトーミもミケラの絵を誉める。
「お前らもこっち来て見てみろ」
チャトーラは小妖精達を呼んだ。
「呼んだりしてなにさ。あたい達、絵には興味ないんだけど」
「絵なんて興味ないじゃん」
「四露死苦」
「まあ、そお言うなって。これ見てみな、これお前達だろ」
チャトーラに言われて小妖精達は絵を覗き込む。
「これあたい達?」
「なんかいいじゃん」
「四露死苦」
それは小妖精達三人が、楽しそうに笑いながら飛んでいる絵だった。
ミケラの絵は小妖精達にも好評を得る。
その間、武茶志はせっせと絵を仕上げていた。
チャトーラやタマーリンがミケラの絵を誉めて騒いでいる内に仕上がった。
「俺も出来ました」
自信満々に絵を皆に見せる。
その絵は小柄なオタク女子が主人公の日常学園アニメに登場する、主人公の友人のお金持ちの癒やし系少女だった。
武茶志は転生する前の高校時代にこのアニメにはまり、特にこのキャラに萌えまくって勉強の合間を縫ってはこの少女の絵を描いて過ごしたのだった。
オタク系サイトに何度か絵を投稿して評判も良かった、大学でサークルにはまらないで絵を描き続けていたらイラストの道に入っていたかもしれない。
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