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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 107

〈私もやりたい〉

〈わたしも走りたい〉


 ミケラとサクラーノがミサケーノの頭の中で騒ぐ。

 二人はミサケーノにジャンケンだけして貰うつもりだったのだ。


「はいはい、さっきの約束覚えてるかな?」


〈うきゅう〉


 一瞬で黙らせる。

「これ一回だけ、一回だけだから」

 

〈でも〉

〈わたし達も〉


 ミケラとサクラーノは何か言いたげだったが、

「さっきジャンケンして上げたじゃない、その分」


〈ジャンケンの分か〉

〈じゃ、仕方ないか〉


 二人はミサケーノが鬼ごっこで遊ぶのを認めた。

 それが大人の汚い罠だと知らずに。


「それでは行きますわよ、スタートですわ」

 タマーリンの手が振られ、鬼ごっこのスタートだ。


 一斉に走り出す子供達。

「魔王、早く早く」

 マオの手を引いて走るミサケーノ。


「よ、予は魔王ではない・・・マオじゃ・・・」

 ミサケーノに手を引かれ、ヒーヒー言いながら走るマオ。


「予、まてぇい」

 追いかけてくる子供がいた。

 今回の鬼だ。

 日頃から誰がどれくらいで走るか知っているので、自分に相応しいのがマオと狙いを付けてきたのだろう。


 少しずつ距離が詰まってきている。

 マオの感じからして、これ以上速く走るのは無理だ。


「どうしよう」


〈ダメダメ、マオちゃん頑張って〉

〈マオちゃん、頑張れ〉


 頭の中でミケラとサクラーノがマオを応援するが、マオには聞こえないのだ。

「二人とも、マオには聞こえないよ」

 とミサケーノが言っても、


〈マオちゃんファイト!〉

〈マオちゃんはしれ!〉


 聞き入れはしない。


「ヒ~ハ~、ヒ~ハ~」

 これで何度目かの鬼ごっこなので、マオの体力の限界に近かいのか、見る見るうちに走るスピードが落ちていく。


 でも追いかけてくる子供も似たり寄ったりで、差があまり縮まらない。


「これくらいのスピードなら丁度いいわ」

 ミサケーノがにまっと笑う。

 何か仕掛けるつもりだ。


「それじゃあ行くわよ」

 かけ声と共に、走りながらマオの両手を掴むと放り上げた。


「うげっ」

 唐突の事に変な声を上げるマオ。


 ミサケーノはマオを放り上げると同時に自分もジャンプして、たかーくたかーく飛び上がる。


 あまりの高さに、鬼ごっこをしている子供達の動きが止まった。

 一斉に見上げる子供達。

 軽く、十階建てのビル程の高さまでとんだ後、二人は落ちてきた。

 

「よっと」

 着地と同時にミサケーノはマオの身体をキャッチする。

「大丈夫、怪我はない?」

「だ、大丈夫じゃ」

 驚きの表情をしながら、異常のない事を伝えた。


                     (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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