ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 100
「ゆい、大丈夫?」
トランスロットはゆいを気遣った。
飛んだ後、立ち上がるのも辛そうにしていたのに、その後二度も走り回った。
トランスロットとしては心配で仕方なかったのだ。
そもそもゆいは走るのはあまり得意では無かったが、鬼にあまり追い回される事もなく、追われても直ぐに別の子達に行ってくれたのでそんなに沢山は走っていなかったのだ。
それは自分達より足の遅い子は狙わないという、子供達の暗黙のルールがあったからだった。
自分達より足の遅い子、例えばシャムタの弟たちばかり狙うと、
「こいつ、かっこ悪い」
と仲間内から馬鹿にされるのだ。
だから鬼になった子供達は、自分達と同じ速さか自分達より速い相手を狙う。
その方が思いっきり走れて楽しいし、追われる方も緊張感が生まれて楽しめるからだ。
やはり遊びは楽しいが一番。
なので、足の遅いゆい達は鬼からあまり狙わなかった。
追われている子供達が自分達の方に逃げてくれば、逃げないわけにもいかないので、その時は思いっきり走った。
逃げた回数はあまりなかったが、それなりに疲れたのは確かだ。
「平気、飛ぶより走る方が疲れない」
ゆいがニコッと笑う。
「ほら、大丈夫」
ゆいはベンチから立ち上がると、何度か飛び跳ねてみせる。
本当に大丈夫そうだ。
「天使だから、僕たちとは違うのかな?」
トランスロットが疑問を口にしてみたが、
「そうかも」
それだけで、それ以上会話が続かなかない。
でも、トランスロットもゆいも会話が無くても二人で座っている時間が好きだった。
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「実際の所、どうなんでしょうかナナ様」
心配して遠見の鏡でゆいの様子を見ていたミームが、一緒に見ていたネビュラ・ナナに聞く。
「天使に戦うなんてさせたくないから、逃げられるように飛行能力は上げてあるのよ。あの子達の戦う姿なんて見たくないし、それで傷つく姿なんて絶対に見たくないから」
ネビュラ・ナナは戦いの女神ではない、自分が子供のように愛している天使が戦う姿なんて想像もしたくないし、それで傷つくなんて論外なんのだ。
「わたしはいいの?」
とミサケーノに言われそうだが、ミサケーノに滅多な事では傷つかない身体を与えられたのはネビュラ・ナナなりの優しさなのかもしれない。
すぐにやらかして優しい疫病神と恐れられるネビュラ・ナナとしても、自分の手を汚すより現地の人間に押しつけた方がいいと考えたのかもしれない。
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