転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その28
クロはその表情に気が付かないふりをして武茶志に声を掛けた。
「武茶志、凄いですね。力を加減していたとは言え、タマーリンおあれだけの攻撃に耐えたのですから」
「あれで力をセーブしていたんですか?」
武茶志が驚きの声を上げた。
「当然ですわ、わたくしが本気で攻撃していればプロテクションごと消し炭になっていますわよ」
自分の気持ちを誤魔化すかのようにタマーリンはその話に乗ってきて高笑いをする。
武茶志はそれが冗談では無いのが判り、無事に済んだ事にホッとした。
「負け、負け。僕の全面的負けです。走りではチャトーラに負けて、剣術は虎次郎に瞬殺」
チャトーラは「どうだ」とばかりにポーズを取り、虎次郎は当然と静かに頷く。
「タマーリンには手も足も出なかったし、クロには完敗」
武茶志とクロのジャンプ勝負は、クロが雲を突き抜けるほどのジャンプして圧勝で終わった。
その後、クロは減速もせずに着地して草原にクレーターを作ったので、チャトーラに張り倒されたのだが。
「そんな事はありませんわよ、魔法に関してはわたくしが天才であるので仕方ないとしても、虎次郎の速攻を防ぐほど速くプロテクションは張れませんわ。それに魔法にも物理攻撃にも対応したプロテクションなど通常はあり得ませんのよ」
「えっ、そうなんですか?」
魔法には疎い武茶志が驚く。
「魔法を防ぐのには魔法を防ぐ為の魔力を注ぎ込む必要があるのですよ、物理攻撃も同じ。必要になる魔力の質がまるで違うので別々に使う事になるのです。それを一つのプロテクションで済ませるなんて魔術の原理としてあり得ませんわ」
「あれってそんなに凄いんですか?」
信じられないという顔でタマーリンを見た。
「そうですわね、物・魔プロテクション?いえ、違いますわね・・・あれだけ速く・・・いえ、元々からあって」
タマーリンが何やら口の中で呟く。
「そう結界、結界なら理屈が合いますわ。魔法にも物理攻撃にも対応した万能結界、常時貴方を守る為に展開している結界と言うべきでしょう・・・・・・ふふふ、面白いですわね」
タマーリンが獲物を求める獣のような目で武茶志を見つめ、武茶志は自分の身にとてつもない危険が迫っている予感がして身震いする。
「結界・・・結界ですか、それは面白いかも」
クロも何やらブツブツと呟く。
「それに走るのは俺が速いかもだけど、武茶志のように高く飛べないぜ。自信持てよ、なんだかんだ言ってお前は凄いぜ」
チャトーラがポンと武茶志の肩を叩く。
「走りの事で聞きたい事があったら俺が相談に乗るからよ」
チャトーラが親指を立てる。
虎次郎も剣を突き出す。
「魔法の事ならわたくしがいつでも相談に乗りますわよ」
「音の壁を破って飛びたければ僕が・・・ぎゃふん」
クロが途中まで言いかけてチャトーラに思いっきり張り倒された。
「さあさあ、今大会の大トリそしてメインイベント、ミケラ様と武茶志のお絵描き対決を始めますわよ」
タマーリンがいつも以上に気合いを入れて叫んだ。
「ドンドンドン」
「パフーパフーパフー」
チャトーラとチャトーミの口楽器にも気合いが入っている。
「わーい、お絵描き」
ミケラがトコトコと走ってくる。
「ふっ、絵は俺、ちょっと自身有りますから」
余裕で武茶志は歩く。
「はい、それでは紙を配ります」
タマーリンが紙の束を抱えて来る。
「はい、ミケラ様」
ミケラに丁寧に紙を渡し、
「ほら受け取りなさい」
武茶志にはぞんざいに突き出す。
「はい、ありがとうございます」
武茶志はこの扱いにも慣れてきたので素直に受け取った。
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