ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 97
逃げた子供達は、鬼から十歩離れたところで止まる。
そして、一斉にタマーリンを見た。
「わ、わたくし?」
子供達に見られて慌てるが、
「そうでした、時間係でしたわね」
時間を計る時間係の合図が正式な鬼ごっこの始まりなのだ。
タマーリンは時計塔を見る。
時計塔は街のどこからでも見えるように高く作られているので、広場からでもよく見る事が出来た。
タマーリンは手を上げ、子供達が身構える。
「よーい、スタートですわ」
手が振り下ろされると同時に子供達が一斉に広場に散り、鬼も追いかける。
興奮した子供達の奇声が広場に響く。
タマーリンはベンチに腰掛け、元気よく遊ぶ子供達の事を見守った。
「確か五分でしたわね」
時折、時計塔に目をやる。
シャムタには、五分したらストップの合図を出してと言われていた。
今日はシャムタの弟と妹も混ざっているので、長く遊びすぎると小さい子が疲れてしまうのだ。
因みに、ミケラとサクラーノも小さい組。
特にサクラーノは電池切れが激しく、その場でコテッと倒れる事もよく有るので、サクラーノが混ざっている時の鬼ごっこの時間管理は厳しくしないとダメなのだ。
その点も、シャムタから言われていた。
「そろそろですわね」
タマーリンは早口言葉で呪文を練り上げると、
「ストップ、時間ですわ」
風の魔法を使って、子供達一人一人の耳元に言葉を届ける。
唐突にタマーリンの声が耳元で聞こえ、
「うひゃあ」
変な声を上げて子供達が一斉に動きを止めた。
「ねえねえ、今のどうやったの?」
「魔法?魔法?」
「耳元で声が聞こえた」
子供達が興奮して、タマーリンの周囲に集まる。
「ええ、魔法ですわよ」
タマーリンには珍しく、優しく微笑みながら子供達の相手をする。
「もう一度やって」
「お願いします」
「タマーリンやって」
ミケラからのお願いもあったので、
「いいですわ」
快く了承する。
「それなら皆さん、少し離れてくださいまし」
子供達が一斉にタマーリンから離れた。
「そのくらいでよろしいですわ」
ある程度離れたところで、子供達を止める。
再び詠唱をして、
「聞こえますか?」
と子供達の耳元に声を届ける。
「うぉぉぉ、凄え!」
「直ぐ側で声が聞こえた」
「魔法凄い」
子供達が興奮して駆け戻ってくる。
「わたしにも魔法使える?」
聞かれて、
「魔法を使うには、魔法を使える才能が必要ですわ」
「誰でも使えないの?」
「ええ」
その言葉に聞いてきた子はがっかりする。
「才能ってタレントみたいなの?」
「少し違いますわね。人間やエルフ、ドワーフにも魔法を使える方、使えない方がいますから。耳が良いとか頭が良いとか、そんな感じですわね」
子供達にはよく判らなかったが、取り敢えずタレントとは違うモノだというのは理解出来た。
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