ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 92
「ゆいちゃんは、初めての人が怖いんだってお母さんが言ってた」
ミケラも庇う。
「うちの弟、知らない人が来ると凄い怖がる」
「私の妹は泣き出しちゃうわ」
「俺んちの姉ちゃんも、母ちゃんに人見知り直しなさいって怒られてるぞ」
子供達が、自分達の兄弟の人見知りについて口にした。
「まあ、怖いものは仕方ないよな」
シャムタが締めると、
「そうだね、仕方ないよね」
と子供達も同調した。
「でもね、ゆいちゃん凄いんだよ」
「なんと、天使なんだぞ」
ミケラとサクラーノが自慢するように、ゆいが天使だと紹介した。
「えっ、天使!白い羽で空を飛ぶ、あの天使?」
「そうだよ」
「白くて凄く綺麗だから」
ミケラとサクラーノが更に自慢した。
子供達の視線が更にゆいに集中した。
「ひぇ」
小さい悲鳴を上げて、ゆいがトランスロットにしがみつく。
「ゆい、もっと自分に自信を持つのじゃ」
マオが声をかける。
「で、でも」
自信なんてモノがあったら人見知りなんてしていない、と言うのを口の中でごにょごにょ言う。
「ミケラの面倒を見るように、ナナ様とやらに言われてきたのじゃろ?ならばミケラの友達とも仲良くしないとダメじゃろ?」
マオの言葉に、ゆいの僅かな勇気に火が点いた。
「そうだ、ナナ様に言われてきたんだ。頑張らなきゃ」
マオは怯えていたゆいの瞳に、僅かながら力が篭もったのを見てフフと笑う。
「ミケラもサクラーノも、ゆいが天使だって言うのを言っちゃダメだって姉さんに言われているだろ」
トランスロットが、ミケラとサクラーノに注意する。
「そうだっけ?」
「忘れた」
ミケラとサクラーノが顔を見合わせる。
「二人とも、昨日怒られたばかりだろ?」
トランスロットが怒るが、
「いいよ、トランスロット」
ゆいが、トランスロットの服を引っ張って止めた。
「いいの、ゆい?」
心配するトランスロットに、
「うん」
小さく微笑む。
ゆいは前に出ると、翼を広げた。
「本当だ、本当に天使だ」
神々しいまでに純白の翼を見て、子供達は納得した。
ゆいは翼をはためかせ、宙に浮く。
それを子供達は、ぽかんと口を開けて見上げる。
「よし、予も」
マオも翼を広げてゆいの横に並ぶ。
神々しいまでの純白の翼と闇で出来たどこまでも黒い翼、並ぶとその対比が更に際立つ。
「よしっ、バトルじゃ!」
マオの唐突の宣言に、目を白黒させるゆい。
「ば、バトルって何?」
「天使と魔王が揃えば、バトルしかあるまい」
マオが自信満々に言い放つ。
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