ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 91
シャムタは髪をかき上げ、髪の毛がボサボサに立つ。
おもむろに両足を広げ、僅かに右手を挙げ、
「異論あり!」
と人差し指を突き出す。
人差し指から圧が発せられ、離れたの木の葉が数枚揺れる。
シャムタは、
「ふっ」
と笑う。
「兄ちゃん凄い」
「今度はいっぱい揺れた」
シャムタの弟と妹が大騒ぎだ。
「やったな、シャムタ」
「一気にあんなに揺れるなんて、初めてじゃん?」
遊び仲間達も、シャムタを誉める。
ここは王都の街中に作られた、子供達の為の遊び場。
広々としていて、子供達が走り回れるようになっていた。
もしもの時は、一旦ここに集合してから倉庫に避難するようにもなっているのだ。
一度に倉庫に集まっても混乱するので、それを避ける為に。
遊び場には、子供達が登って遊べるように木が何本か植えられている。
猫の妖精なので、木登りは本能的に好きなのだった。
シャムタが指先を突きつけたのは、その内の一本だった。
シャムタのタレントは交渉。
他者との交渉をスムーズに進めるのに有利になるタレントだ。
シャムタの家は王都で八百屋をやっていたので、シャムタは八百屋の助けになるタレントを希望していたのだが、
「お客とのやり取りだって交渉っていやあ交渉でい、立派に商売の助けになるぜ」
と父親に言われ、こうしてタレントの能力向上に努めているのだった。
何か違う気もするが。
「やっほ~~~っ」
そこへとランスロットに連れられたミケラ達がやって来た。
「うぉぉぉ、サクラーノが普通に歩いてきた!」
サクラーノが走らずに歩いてきたので、子供達に衝撃が走る。
「えへへへ、昨日迷子になっちゃって怒られたから」
ミケラが説明した。
「迷子ってどこで?大丈夫だった?」
シャムタや他の子供達が心配して聞いてくる。
「えっとね、あのね」
ミケラは昨日、タマーリンに覚えさせられたことを説明した。
ミサケーノのことは秘密なのだ。
「おれ、その公園行ったことある」
「あたしもある」
「ボクはまだ行ったことないよ」
子供によって反応は様々だった。
「一度行くといいぞ」
「うん、大きな水車が近くに有って凄いよ」
「そうか、父ちゃんに頼んでみよう」
子供達は、ミケラ達が昨日行った公園の話で大盛り上がりになった。
「この子、誰?」
そして、話はゆいに移る。
みんなの視線がゆいに注がれ、ゆいはトランスロットの後ろに隠れた。
「わははは、ゆいは人見知りなのだ。だからあまり見てやるな」
マオが庇う。
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