ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 89
「よし、じゃあこっちもお願いね」
別の野菜を渡す。
「うん」
嬉しそうにゆいはその皮を剥きだす。
その後、朝食に使う野菜の皮を全てむき終わる頃には、ゆいの手つきはかなり良くなっていた。
「これ全部ゆいが剥いたんだよ、凄いじゃない」
言われて、
「えへへへへ」
と笑うゆい。
ゆいは気がついていなかったが、ゆいの中で小さい自信になったのだった。
「おはよう」
ミーランダがやって来た。
「あらゆい、お手伝い?偉いね」
また誉められてゆいは嬉しそうに、
「おはよう、ミーランダ」
といつもより少し元気に挨拶をした。
その声に、ミーランダは、
「うふふ」
と笑う。
「見て見て、これ全部ゆいが皮を剥いたんだよ」
ロレッタがミーランダに見せる。
「おおっ、これ全部をゆいが皮を剥いたの!凄いじゃなの!」
ミーランダは大げさなくらいに驚いてみせる。
タマンサの家の教育方針が、誉めて伸ばすというのを知っていたので、それに便乗したのだ。
ノリの良いお姉さんである。
「こっちはゆいと二人でなんとかなるから、ミケラとサクラーノとマオを起こしてきてくれない。着替えさせて、顔を洗わせてね」
「はーい」
返事と共に、ミーランダは子供部屋に向かう。
ミケラとサクラーノは同じベッド、マオは隣のベッドで寝ている。
まず、ミケラとサクラーノをお越す。
「姫様、サクラーノ、朝ですよ起きて」
二人の身体を揺する。
サクラーノは寝る時は電池が切れたように直ぐに寝てしまうが、起きる時も直ぐに目覚める良い子だった。
猫は寝付きも良いが、起きる時も直ぐに目が覚める。
それは野生で生きていく為に身に付けて特性であり、猫の妖精であるケットシー達もその特性で寝起きが良いのだ。
しかしミケラは一瞬目覚めたかと思うと、毛布を頭から被って再び寝てしまう。
完全に野生を忘れた猫状態だ。
「姫様、起きて下さい」
「ミケラ起きて」
ミーランダと、サクラーノがミケラの身体を揺すったが、更にしっかりと毛布の中に潜り込んでしまう。
これが毎朝の行事なのだった。
「こうなったら最終手段です」
ミーランダが腕まくりをすると、一気にミケラから毛布を引き剥がす。
「あうぅぅ、おはよう」
毛布を剥がされて目をしょぼしょぼさせながら、ミケラがやっと目を覚ます。
マオはその騒ぎに、目を覚ましていた。
「ミケラ、毎朝、毎朝迷惑をかけおって。ちゃんと起きぬか!」
と怒るのだが、
「う~っ、毛布の妖精さんと仲良くしているだけもん」
言い分けにもならない言い訳をして、頬を膨らませる。
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