ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 88
タマーリンがミケラとサクラーノを連れて砦に着くと、お妃様の執事のシャムフレッドが待っていた。
「お待ちしておりましたミケラ様、タマーリン様」
恭しくお辞儀をする。
ミケラはシャムフレッドの顔を見た途端、タマーリンの後ろに隠れた。
お城に連れ戻されると思ったのだ。
「ご安心下さいませミケラ様、お家へお送りするだけで御座います」
出来る限り優しい声で、シャムフレッドはミケラを安心させようとする。
「大丈夫ですわミケラ様、わたくしが必ずお家にお連れしますから」
タマーリンが微笑みかけると、
「ホント?」
「はい」
タマーリンが微笑みながら頷くと、それで安心したようだ。
その後、お妃様の用意した船で王都に戻り、日の暮れる前に家に帰ることが出来た。
タマンサが泣いて出迎え、ロレッタに怒られて、それで一件落着。
「ミーランダ、心配かけてゴメンね」
ミーランダも心配して、残ってくれていたのだ。
「いいよ、いいよ。私だって姫様やサクラーノちゃんのこと心配だったから。見つかって本当に良かった」
ミーランダはミケラと同じくらいに、サクラーノの事も可愛がってくれていた。
「わたし、末っ子だから、姫様もサクラーノちゃんも妹みたいな感じだから。気にしないで」
ニコッと笑うミーランダ。
「姫様のこと、家でも心配してると思うから、帰って教えなきゃ」
手を振りながらミーランダは、足早に家に帰っていった。
次の朝、厩舎はお休みなのでトランスロットは部屋でのんびりしていた。
ゆいはロレッタ一緒に起きて、ロレッタのお手伝い。
夕べ、寝る前にゆいから申し出たのだ。
人見知りで陰キャのゆいにしては珍しい。
「ほらゆい、これはこう使うのよ」
モモエルが試作品だと持ってきた、皮剥き器の使い方を教える。
無茶士からピラーの話を聞き、試行錯誤の末に造ったモノで、モモエルはうまく使えるようなら売り出す腹づもりのようだ。
なにしろ、魔道研は予算がいくら有っても足りない。
魔道研は予算のブラックホール、研究開発費がいくらあっても吸い込まれて消えていくのだ。
なので街の人に役に立って、資金も増えるというモモエルの希望にぴったりの生活道具なのだった。
「出来た」
うまく皮むきが出来て、にっこり笑うゆい。
「うん、上手、上手」
ロレッタは誉める。
正直、その手つきはおっかなびっくりでなんとか出来た状態だったが、タマンサ家の教育方針は誉めて伸ばす。
ここは褒める一択しかない。
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