ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 83
「も、もしかしてナナ様というのは、ネビュラ・ナナ様と言うんじゃないかい?」
お妃様が恐る恐る聞く。
「はい」
ニコッと笑うゆい。
ゆいの返事を聞いて、お妃様が固まる。
「どうかしましたかお妃様」
サウが心配になってお妃様に声をかけた。
「いや、大丈夫だよ・・・こ、この子があんまり可愛いから」
お妃様は誤魔化しだとバレバレの言葉を吐く。
それほどに、動揺していたのだ。
「まさか、こんなところで古い神話に出てくるネビュラ・ナナの名前に出会うとは・・・優しき疫病神か・・・」
お妃様は額の冷や汗を拭う。
しかし、お妃様の驚きを上回る事件がこの後起きたのだった。
「大変だ、大変だ」
チャトーラが厩に飛び込んできたのだ。
「なんだいチャトーラ、騒がしいね」
お妃様がチャトーラを窘める。
「それどころじゃないですよお妃様、大変なことが起きたんです」
泡を食うチャトーラ。
「大変な事ってなんだい?」
「驚かないで聞いて下さいよ」
「いいから、さっさとお言い」
「ミケラ様とサクラーノが行方不明になったんです!」
事の顛末は、タマーリン達が一瞬、ミケラ達から目を離した瞬間にサクラーノがミケラを連れて森の中に入っていって仕舞ったのだ。
他の者達は森の中にミケラを探しに行き、馬より速く走れるチャトーラが城に報せに戻ってきたのだった。
「お妃様がこっちにいるって聞いて、知らせに来たんだよ」
一気にまくし立てた後、チャトーラは一息つく。
「タマーリンとモモエルが一緒にいて、何をやってるんだい」
お妃様は怒ったが、直ぐに表情を変えて、
「宮廷に戻るよ。チャトーラ、あんたも一緒においで」
それからサウの方を向くと、
「トランスロットとゆいを借りてくよ、かまわないね?」
有無を言わさぬ声で聞く。
「人手のいる作業は終わっていますので、かまわないです」
サウも事が事なので即答する。
「ほら、二人とも行くよ」
お妃様はチャトーラ、トランスロット、ゆいを引き連れて宮廷に戻っていった。
お妃様が宮廷に戻ると、執事が大慌てで出迎えた。
「お妃様、大変でございます。ミケラ様が・・・」
「話は聞いた、今はどうなっている?」
「はっ、何しろ取水場の公園と言いますとここから遠い上、連絡手段もございませんから」
モモエルが使っていた通信機は開発したばかりで、まだテスト運用の段階だった。
緊急連絡用として、魔道具を使った伝導管が使われているが、それも主立った施設に置かれているだけなのだ。
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