ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 82
二日後、ミケラとサクラーノはタマーリン達に連れられて、朝から浄水場見学に出かけている。
トランスロットゆいは、今日も厩でお仕事。
いつもの如く、厩の掃除がお昼までかかり、それから昼食だ。
「邪魔するよ」
お昼を食べていると、お妃様がやって来た。
「これはお妃様、何か御用で」
食事の手を止め、サウが立ち上がって出迎える。
「なーに、ここでトランスロットが働いてるって聞いてね、様子を見に来ただけだよ」
用向きを聞き、サウは頷くと振り返り、
「トランスロット、こちらに来なさい。お妃様が、御用だそうだ」
トランスロットを呼ぶ。
「こんにちは」
トランスロットはお妃様に挨拶して、頭を下げる。
「どううだい、仕事はやれそうかい?」
お妃様は優しく聞く。
「はい、サウさんに色々教えて貰ってます」
お妃様の知っているトランスロットとは違う、覇気のある声にお妃様は嬉しそうに笑った。
「そうかい、そうかい。あんたは男の子にしちゃちょっと覇気が無かったからね、今の声を聞いて安心したよ」
孫を見るような目でトランスロット見つめる。
「そっちの子は、噂の天使の子だね」
ゆいの方に視線を向けた。
タマンサの家で、顔は何度か見ていたが、ミケラの件でゴタゴタしていたので挨拶はまだだったのだ。
「ゆい、おいで」
トランスロットがゆいを呼ぶ。
呼ばれてきたものの、ゆいは速攻でトランスロットの後ろに隠れてしまう。
「おやおや、これはトランスロットより難物だね」
お妃様は、カッカッカッと笑う。
お妃様はしゃがんでゆいと目の高さを合わせると、
「お嬢ちゃん、名前はなんと言うんだい?」
名前は知っていたが、敢えて聞く。
「ゆ、ゆい・・・」
「ゆいかい、良い名前だね」
お妃様がにっこりと微笑む。
「ナナ様が付けてくれたの」
名前を誉められて、ゆいのテンションが上がった。
嬉しそうに笑う。
その笑顔は流石に天使と言うほど、破壊力抜群な可愛い笑顔だった。
「・・・ふう、さ、流石天使だわ・・・ね。え、笑顔もとても可愛いよ」
お妃様は自分の動機を抑えるように、胸に手を当ててゆっくりと話す。
「それで、ナナ様というのはどなただい?」
「ナナ様はわたし達天使を作ってくれて、名前を与えて下さった方です」
ゆいはネビュラ・ナナを讃えるように両手を胸の前で合わせ天を見上げた。
「ナナ様というのは、神様のことでいいのかい?」
頷くゆい。
お妃様は、何か引っかかるモノを感じた。
「ナナ様、ナナ様・・・ナナ・・・!」
しばらく頭の中で考えを巡らし、一つの結論が導き出されたのだった。
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