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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 80

「ミケラとサクラーノには文字の読み書きとお金の計算が出来ればいいというのが、我が家の決定だから」

 ミケラは本人が望もうが望むまいが王族であり、この国が存在する限り生活に困ることは無い。

 教育の方も、本人が望まない限り無理強いはしないという方針になっているので、最低限の礼儀作法くらいしか習っていないのだった。



 サクラーノは一般庶民として生きていく為に、文字の読み書きとお金の計算が出来れば充分なのだ。

 それ以上は、職が決まってから習うことになるだろう。



 タマーリンもモモエルも優秀であり、二人から教えを請いたいと思う者は少なからずいる。

 ただ、ミケラやサクラーノには縁のないものなのだったのだ。



「・・・・・・」

 タマーリンとモモエルが、顔を見合わせて黙っている間に、ロレッタはサビエラに目配せをする。

 それを見て、サビエラが動いた。



「モモエル様、研究所に戻りましょう。ここに居たら、本当に出禁になってしまいますよ」


 へたり込んでいるモモエルに手を貸して立ち上がらせる。

「う、うん・・・そうね、あの実験の仕度もしなと・・・」

 サビエラの肩を借りて、ヨロヨロと家を出て行くモモエル。



 モモエルと入れ違いに、

「タマーリンさん、迎えに来たよ」

「帰りましょう」

「お迎えに参上しました」

 タマーリンの家に居候している三人娘がやって来た。



「何故、あなた方が?」

 へたり込んでいたタマーリンが、顔を上げて三人を見る。

「さっき、あの偉そうな女の子が来て、タマーリンさんを迎えに来てって言って去って行ったから」

 キマシが説明する。



「偉そうな女の子・・・マオですわね」

 何故マオがと、タマーリンが考えていると、

「わたしが考えたんだよ」

 その声を聞いた瞬間、タマーリンは滅茶苦茶嫌な顔をした。



「お、お妃様!」

 ミーランダが素っ頓狂な声を上げる。

 それはそうだろう、お城では結構怖い存在であるお妃様が、ひょっこり顔を出すなんて驚くなと言う方が無理である。



「お婆ちゃん、いらっしゃい」

 ロレッタがニコニコしながら手を振る。

「誰がお婆ちゃんだって、いくらあんただって怒るよ」

 お妃様が、ロレッタにお婆ちゃんと呼ばれて、少し嫌な顔をする。



「ミケラのお婆ちゃんなら、私のお婆ちゃんでしょ?」

「本当に、口の減らない子だね。誰に似たんだか」

 お妃様は、やれやれとばかりに溜め息をつく。

「母さん」

 ロレッタは即答した。



 しばし黙っていたお妃様は、

「それで、あんたにそんな教育をしたタマンサは?」

 ロレッタに聞く。

「ミケラとサクラーノに勉強を教えているわ」


                         (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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