ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 79
「タマーリン様、モモエル様、お茶をどうぞ」
ミーランダが片付けたテーブルに案内して、ロレッタは用意したお茶を出す。
「ありがとう」
「ロレッタ、わたし達には気を遣わなくてもいいわよ・・・それより」
タマーリンとモモエルが、家の奥の方に視線を向ける。
「ミケラとサクラーノはお勉強です。母さんが文字の読み書きを教えてるんですよ」
お勉強という言葉に、タマーリンとモモエルがピクンと反応した。
「お勉強ならわたくしが」
「勉強ならわたしが」
二人同時に立ち上がり叫ぶ。
「ミケラ様のお勉強はわたくしが見ますわ!」
「いいえ、ミケラ様の勉強はわたしが見ます!」
互いに睨み合い、二人の間に火花が散る。
「はいはい、そこまで」
ロレッタが手を叩いて二人を止める。
「ロレッタ、止めないで下さい。わたくしがミケラ様を、どこに出しても恥ずかしくない魔法学の権威に育てて見せますわ」
「ミケラ様は、わたしが物作りの喜びを教えて、将来はわたしに代わって魔道研の所長にになって貰います」
言い切る二人。
「なんですって!」
二人の間に再び火花が散る。
「ミケラ様は魔法学の権威になるのですわ!」
「ミケラ様はわたしに代わって、魔道研の所長になるんです!」
火花を散らしながら睨み合う二人。
「お二人のお気持ちは嬉しいですが、ミケラ達のお勉強は母さんに任せますからお引き取り下さい」
ロレッタは強気に出る。
「わ、わたくしでは不足というのですか?」
「わたしのどこに問題があるというの?」
ロレッタに食って掛かる二人。
「ミケラに魔法の才能は無いので、魔法のお勉強はいりません」
ロレッタはバッサリと切り捨てる。
「それに手先も不器用だから、モノ造りなんて向いていないのでそのお勉強も不要ですから」
容赦なしだ。
ロレッタ無双は更に続いた。
「これは我が家の決定事項です、嫌なら今後ウチには出禁にしますよ」
ついに伝家の宝刀を抜き放つ。
「で、出禁」
「そ、そんなご無体な・・・」
その場にヘナヘナとへたり込む二人。
「で、出禁になったら・・・こ、こでミケラ様の顔を見ながらお食事が・・・」
「ミケラ様と・・・お茶・・・お茶が飲めなくなる・・・」
現実に、ガクッと肩を落とし、うなだれる。
しかし、それで諦める二人では無かった。
「どうして、どうして教えるのがタマンサさんなんですの?」
「どうしてタマンサさんなんですか?」
自分達では無く、タマンサが教えるのに不満をぶつける。
「母さん、ああ見えても文字の読み書きはきちんと出来るだよね」
旅回りをしている間に、自分でお話を作って上演までしているので、文才は間違いなくある。
「それに、もの凄く意外だけどお金の計算も出来るし・・・お金の計算が出来るのに、なんでお金を持たせると使い切っちゃのかな?」
本当に不思議そうに首を捻るロレッタ。
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