転生したら最強勇者になったが、住民の方が優秀だった件 その26
「ええ、とてもありますわよ。術者によって右手と左手では効果が違ったりする事は良くありますの。魔法というのは繊細で高度な技なのですわよ」
タマーリンの説明に武茶志はよく判らなかったが、
「つまり、右手と左手のプロテクションでしたっけ、その違いを確かめたんですか?」
「はい良く出来ました、エラいですわ」
タマーリンが拍手をするが、武茶志は逆に馬鹿にされたような気分になる。
「別に貴方の事を馬鹿にして行っているわけではないですわ、もし利き手側が強かった場合、どうするか考えておく必要があるでしょ?」
問われて武茶志もタマーリンの言っている事が理解出来た。
「そうですね、利き手側が強かったら魔法を使う度に引きを持ち替えるか、弱い方でも戦えるように工夫が必要ですよね」
武茶志の返事を聞いてタマーリンは満足そうに頷いた。
「ではこれからが本番ですわよ」
タマーリンの言葉に武茶志は背筋が凍る思いがした。
「ほ、本番て何をするつもりですか?」
「両手を前に出して、足を踏ん張りなさい」
ニコッと微笑むタマーリン。
その笑顔に逆に身の危険を感じた武茶志は大慌てで両手を突き出し、両の掌に意識を集中した。
これから本気でやばい事が起きると、自分の中の何かが告げたからだ。
「踏ん張りなさいね、男の子」
言うと同時に腕を振り、無数の小さな火の玉が発生して一斉に武茶志に襲いかかる。
「男女差別はんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
武茶志の雄叫びは爆炎の音にかき消された。
タマーリンはそれから高笑いを上げながら容赦無く何度も腕を降り続けた。
「兄ちゃん、怖いよ」
あまりの光景にチャトーミが怯えてチャトーラにしがみつき、珍しく虎次郎がミケラの目と耳を塞いでいた。
いつ果てるともなく無数の小さな火の玉が飛び、武茶志の周りで間断なく爆炎が発生し、轟音が轟く。
チャトーラは怯えるチャトーミの身体を抱きしめて、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。
「そろそろ限界かしら」
そう呟くとタマーリンは腕を振るのを止める。
「生きていますか武茶志?」
「は、はい、なんとか」
爆炎が起こした煙が薄れるとその中から武茶志の姿が現れる。
ヘロヘロで立っているのがやっとという感じだ。
「今はどんな感じかしら?」
「なんか凄くしんどいです、精神的にどっと疲れが出たような変な感じで」
その返事を聞いてタマーリンは満足そうな表情を浮かべた。
「それが魔力が切れると言う事ですよ、覚えておきなさい。魔法を使えば魔力が消費します、魔力が無くなれば魔法は使えなくなりますよ。魔力管理は魔術を使う者にとって命綱、出来るようにしておきなさい」
タマーリンにしては珍しく優しく教えてくれた。
「それからこれは一番大切な事ですから絶対に覚えておきなさい、本当に魔力が切れたらその場で気を失いますよ。意味は判りますよね」
真剣な表情で武茶志を見つめるタマーリン。
武茶志も真剣に頷いた。
「こ、これが魔力切れ」
初めての経験に戸惑いながらも、大事な事を教えてくれたんだなとタマーリンを改めて見た。
「ありがとうございます、俺に凄く大事な事を教えて頂いて」
今にも倒れそうな武茶志はタマーリンに頭を下げる。
心の底からの行動だった。
「うふふふふ、本当に面白い子ですわ。そうね、街に来たら私を訪ねなさい、魔法についてもう少し教えて差し上げますわ」
タマーリンは嬉しそうに笑いながらミケラ達の元に向かう。
ミケラ達も既に走り出してタマーリン達の方に向かっていた。
「ミケラさまぁぁ~~~~っ」
タマーリンが虎次郎に抱えられているミケラに手を振る。
しかし、ミケラ達はタマーリンを通り過ぎて武茶志の方に向かって走って行った。
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