ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 70
「ゆい、お姉ちゃんに任せおいてね」
ロレッタがにまにま笑いながら、ゆいの肩を叩く。
「お姉ちゃん?ロレッタは私のお姉ちゃん?」
言葉の意味が判らず、オロオロするゆい。
「姉さん、ゆいが困ってるじゃないか。あっちへ行けよ」
トランスロットが追い払おうとしたが、
「ムフフフ、トランスロットカッコイイ。ゆいもそう思うよね?」
相変わらずにまにま笑いながら、ゆいに聞く。
「トランスロットが・・・カッコイイ・・・?カッコイイってなぁに?」
ゆいがロレッタを見上げた。
「カッコイイはね・・・」
ロレッタは言葉に詰まった。
いざ説明しようとすると、言葉が思いつかない。
「カッコイイってどう説明すれば・・・」
と考えながら、目の端にトランスロットの顔が映った。
「ムフフフ・・・お姉ちゃんに任せなさぁい」
にまぁと笑う。
「さっき、わたしがゆいに話し掛けて、ゆいは困った顔したでしょ?」
「うん、急に話し掛けられるのは苦手」
一緒に暮らすようになり、ロレッタ達には馴れてきて、人見知りも出なくなって来ていたが、まだ完全に馴れたわけではないようだ。
「それで、トランスロットが止めてくれたよね?ゆいは助かったよね?」
「う、うん・・・助かっ・・・た」
一度に質問されて、きょどりだすゆい。
「そう、それよ!」
「ひぇっ」
ロレッタが急に大きな声を出したので、ゆいは咄嗟にトランスロットの後ろに隠れる。
「それがカッコイイと言うこと」
片手を腰に当て、ズバッと言い切るロレッタ。
「それがカッコイイ?」
ゆいは、飲み込めていないと言う顔をする。
「困っているゆいを、さっと助けた、それがカッコイイと言うのよ」
「そうなんだ、それがカッコイイなんだ」
やっと飲み込めた様だ。
「そうだね、困っている人を助けない勇者は勇者に非ずという諺もあるからね」
サウがぼそっと呟く。
「そう、そうよ。勇者様、勇者様ってカッコイイじゃない」
それにちゃっかり乗っかるロレッタ。
乗れる話にはしっかり乗る、それがうわさリスト・ロレッタの真骨頂なのだった。
「勇者様・・・?・・・・・・トランスロットはわたしの勇者?」
ゆいの言葉に、ロレッタが雷に打たれた様な衝撃が走る。
「そ、その発想はなかった・・・天然天使、恐るべし」
そんな事、おくびにも出さず、ロレッタはニコッと笑うと、
「そうよゆい、トランスロットはあなただけの勇者様よ」
「トランスロットがわたしだけの勇者・・・」
ゆいはキラキラした目で、トランスロットを見つめた。
「ね、姉さん」
雲行きが怪しくなってきたので、トランスロットはロレッタに何かを言おうと口を開きかけたが、それより早くロレッタに両肩を掴まれた。
「頑張るのよ、ゆいの勇者様」
じっと見つめるその目からは、有無を言わさぬ姉力が発せられていた。
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