ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 67
「ちょっとミケラ、お姉ちゃんを置いていかないでよ」
苦しそうに肩で息をするロレッタがやって来た。
「あっ・・・ごめんなさい」
上目使いに謝りながら、ミケラは人差し指同士をツンツンする。
うかれたミケラが、途中からロレッタを置いて影移動でここまで来てしまったのだ。
ミケラはうかれると突っ走しって周りがまるで見えなくなる上に、影移動の移動速度も上がるので手が付けられなくなるのだ。
「白妙と黒妙は・・・」
ミケラの護衛の二人は、ミケラに置いて行かれて大急ぎで追っていったので、ここに来ているはずなのだ。
ロレッタが二人の姿を探すと、
「ここに居ますよ」
上から二人が降ってきた。
「うぉ」
サウが驚きの声を上げ、
「ひゃあ」
ゆいが変な悲鳴を上げて、トランスロットの後ろに隠れた。
ロレッタとトランスロットは慣れたもので平然としており、
「わぁ、白妙と黒妙だ」
ミケラはキャッキャッと喜ぶ。
「サウさん、脅かしてごめんなさい」
ロレッタが謝る。
「いやいいんだけど、天井から降ってくるとは思わなかった」
サウは天井と白妙、黒妙の二人を何度も見比べる。
「あなた達は、確かミケラ様の・・・」
タマンサの家族旅行に、この二人がいたのを思い出す。
「その節はお世話になりました」
白妙が礼儀正しく頭を下げる。
「ほら、黒妙も頭を下げるの」
白妙が黒妙の頭を押さえつけて頭を下げさせる。
「姉ちゃん、何すんだよ」
黒妙が怒ったが、
「先日、お世話になったでしょ」
言われて、黒妙は改めてサウの顔を見直す。
「あ~~っ!この前、馬車の御者をしていた!」
大きな声を上げ、サウを指さす。
「ほら、無闇に人を指ささない」
白妙に怒られた。
「妹が済みません」
再び頭を下げる白妙。
「いやいや、いいよ、いいよ。気にしないから、元気な妹さんで・・・あはははは」
サウの方がかしこまってしまう。
「赦して貰って良かったね、姉ちゃん」
ポンと白妙の肩を叩く黒妙。
視線だけで殺せるような目で白妙に睨まれて、黒妙は凍り付く。
「ツンツン」
固まっている黒妙をミケラが突く。
「こら、ミケラ止めなさい」
ロレッタが怒ったが、
「だって、黒妙ツンツンすると面白いのに」
ミケラが頬を膨らませる。
子供のツボが判らず、ロレッタは溜め息をついた。
「ミケラに、ボクが厩で働いてるのを教えたのは姉さん?」
「そうよ、いけなかった?」
「ダメって言うわけじゃないけど」
本当は自分の口で伝えたかったのだが、ロレッタの性格ではそれは無理というモノ。
「うん、いいよ」
諦めた。
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