ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 66
「その前に、やることがあるんじゃないか?」
トランスロットに言われて、
「やること?」
首を捻る。
「ゆいに、ありがとうって言うのが先だろ」
良いお兄ちゃんだった。
「あっ、そうだった」
ミケラは慌ててゆいの方を向くと、
「お羽、ありがとうございました」
とぺこりとお辞儀をする。
キュン
ゆいの中で知らない感情が新たに芽生えた。
その瞬間、世界が一変した。
周りの全てが止まってしまったのだ。
「な、何・・・これは」
焦るゆい。
「大丈夫よ、ゆい」
その声を聞いて、ゆいはほっと息を漏らす。
「ナナ様、ナナ様なのですね?」
嬉しそうに天に向かって話し掛ける。
声の主はネビュラ・ナナだった。
どうやら、世界を止めたのはネビュラ・ナナのようだ。
「正解!正解したゆいには、後でポテチをあげましょう」
「ありがとうございます」
天使達にとって神であるネビュラ・ナナからの下賜されたモノは、それがたとえポテチでも、神の酒ネクタールを頂いたに等しい喜びなのだった。
「いま、胸キュンしたでしょ、ゆい?」
ゆいにはネビュラ・ナナの言葉の意味が判らなかった。
「胸キュンって?」
ネビュラ・ナナは、判らないことは聞けば教えてくれるので、素直に聞き直す。
色々と問題はあるが、こういう所は良い神様だった。
「今、ミケラがペコリとした時、変な気持ちになったでしょ?」
「は、はい」
「それを胸キュンというのよ」
「そうか、あれを胸キュンと言うのか」
ゆいは心の中のメモ帳にメモをした。
「そうよ、そしてこれから大事なことを言うからしっかりと聞いていてね」
「はい!」
ゆいは力強く返事をした。
主神から大事な言葉を貰うのだ、気合いを入れるのは当然だろう。
「胸キュンしたら推す、これが宇宙が定めた理よ」
おや?
「推すって・・・?」
また知らない言葉が出てきて戸惑うゆい。
「推すというのは、投げ銭したり・・・握手会行ってチェキ撮ったり・・・いいねを押したり・・・後は後は・・・」
「ナナ様!」
突然、ミームの怒鳴る声が聞こえて、それっきりネビュラ・ナナとの会話は途絶えた。
こうしてオタク女神の魔手から、純情な天使は逃れることが出来たのだ。
ネビュラ・ナナの声が途絶えるのと同時に、再び世界は動き始めた。
「うみゅ~~」
ミケラが周りをキョロキョロする。
「どうしたの?」
トランスロットが聞くと、
「今、周りがみんな止まっていた気がする」
その言葉を聞いて、ゆいはドキッとした。
実際に、ネビュラ・ナナが世界の時間を今の今まで止めていたのだ。
「この子、あれを感じ取れるんだ」
何故、ネビュラ・ナナがこの子のことを頼んだのか、判ったような気がするゆいだった。
後書きです
「ちょっと作者」
「またサクハラですか、ナナ様」
「違うわよ、ゆいが歌の練習するって聞いたから私も神として負けてられないわ、ここで練習させて」
「ちょっと、止めてくださいよ。アパートでカラオケなんかしたらご近所から苦情が」
「大丈夫、大丈夫。ご近所の時間止めたから無問題」
「神様恐るべし」
「じゃ、歌うわよ。あ”~~~~~♬」
「ゆいの音痴の原因はこいつか」
「ナナ様、お一人でずるいですわ。わたくしも歌わせてくださいませ」
「おお、ミーム。私の後について歌いなさい」
「はい、歌います。ボゲェ~~~~~!」
「こ、これはじゃ、ジャイアンかエリちゃん級のおん・・・ガク(ピクピクピク)」
ではまた来週(@^^)/~~~
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