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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 65

 キラキラした目で自分を見ているトランスロットに、何か言おうと口を開きかけたサウだが、

「そうか、あの時の」

 砦で技術者が魔獣の襲撃に巻き込まれて亡くなったと聞いて、王宮から使者が派遣されたのだ。

 その使者を運んだのがサウだった。

 その時はタマンサとお妃様の関係を知らなかったので、一介の技術者のために何故王宮から使者が派遣されたのだろうといぶかしんだモノだったが。

 トランスロットの家の事情は、今なら知っている。



「ここに、お馬いるの?」

 厩舎の中に小さい子供の声が響いた。

 その声にトランスロットが顔を上げると、入り口にミケラが立っていた。

 厩舎からゴミを出すために、閉めてあった入り口の方は開けたのだ。

「ミケラ」

 トランスロットが声を上げると、

「あっ、お兄ちゃん」

 ミケラがトランスロットの所までトコトコと走ってくる。



「あっ、天使さんだ」

 ところが、トランスロットの横にゆいが座っているのに気がついて、注意がそっちに向いてしまう。

「天使さん、お羽出して、出して」

 会うなり、無邪気におねだりを始めた。

「えっ、えっ」

 唐突にミケラに絡まれて、戸惑うゆい。

 陰キャは、突発ごとに対する対応能力が低いので、仕方なし。



「ほら、ゆいが困ってるじゃないか、ダメだよミケラ」

 トランスロットが注意するが、

「だって、天使さんのお羽見たいの」

 駄々をこねるミケラ。

 ミケラはあまり駄々をこねることはないのだが、トランスロットには駄々をこねることが多い。

「もう、しょうがないな」

 トランスロットも諦めたように溜め息をついて、



「ゆい、翼を広げて見せてくれない」

 ゆいに頼む。

「うん」

 トランスロットに頼まれて、ゆいは翼を広げた。

「わぁ、凄い、凄い。凄く綺麗」

 ミケラは目をキラキラさせて喜ぶ。

 ゆいはミケラと目が合った瞬間、自分の中に暖かいモノが流れ込んでくるのを感じた。

「なんだろうこれ、不思議な感じ・・・でも、いやじゃない」

 ゆいはもう一度ミケラの目を見たが、それ以上暖かいモノが流れ込んでくることはなかった。



「そうだ」

 ゆいは何かを思いつくと、宙に浮き、翼を思いっきり羽ばたかせた。

 そうすると何枚か羽が舞い散り、ゆいはそれを掴むと地上に降りて、ミケラに一枚を差し出す。

「くれるの?」

 ゆいは頷く。

「わぁぁ」

 満面の笑顔で、ミケラはゆいから羽を受け取ると、

「お兄ちゃん、貰った」

 嬉しそうにトランスロットに見せる。


                       (Copyright2025-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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