ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 62
「声を聞けば判るわ。ゆい、わたしの真似して声を出してみて」
「う、うん」
タマンサが立ち上がると、
「あ~~~~~~~~~」
声を出した。
「あ”~~~~~~~~」
その後に続いて声を出すゆい。
音程はブレブレだったが、澄んだきれいな声が辺りを包む。
「たしかに、声は本当に綺麗な」
「でしょ、でしょ」
再び興奮するタマンサ。
「母さんが興奮するのも判るけど、ゆいは本当に歌を覚えたい?」
ゆいにロレッタは聞く。
「うん、歌が上手になってナナ様に誉めて貰いたい・・・」
ゆいの基準はあくまでもネビュラ・ナナだった。
ただ、ゆいがチラッとトランスロットの方を見たのを、ロレッタアイは見逃しはしない。
「ふふっん、ゆいが歌を覚えたいなら、わたしも応援するわ」
と言いつつ、ロレッタはにまにまする。
「でも、練習は明日からね」
「そうね、こう言う事はサクラーノうるさいから」
サクラーノが寝てしまってから歌の練習をしたのがばれると、サクラーノが怒って面倒な事になる。
「だから、歌の練習は明日にしましょう」
少し戸惑いながら、ゆいはトランスロットの方を見た。
「明日も、厩行くから、もう寝よう」
トランスロットにそう言われ、ゆいは頷く。
ロレッタは、朝食の仕度とお昼の仕込みをしてから、お城に出かけるので朝が早い。
「ロレッタも朝が早いし、洗い物はわたしがしておくから、もう寝なさい」
生活は、ロレッタに合わせて動いていたのだった。
「じゃあ、お願いね」
ロレッタは桶にお湯を溜めると、その桶を持ってお風呂場に向かう。
ケットシーは猫の妖精である、そして猫はきれい好き。
身体の手入れをしないで、寝る事は出来ないのだ。
次の日、ロレッタと一緒にトランスロット達も出かける。
「じゃ、わたしこっちだから」
お城の門の前でロレッタと別れ、通用門から厩に向かう。
「おはようございます」
サウに挨拶する。
「おっ、今日も早いな」
トランスロットとゆいに、にこやかに挨拶するサウ。
「姉さんがミケラの所に行くから、一緒に来た」
トランスロットがミケラの兄というのは、街の人間なら誰でも知っている事だ。
ミケラがお城に連れ戻された時の事も、その為にロレッタがミケラ付きの侍女になった事も。
「お前の所も色々大変だな」
笑いながらサウは、トランスロットの肩を叩く。
「う、うん・・・でも楽しいよ」
はにかみながら笑う。
ミケラが突然やって来て、両親と姉が振り回されて、幼いながらに焼き餅を焼いた事もある。
それで年月が経つと、ミケラは大事な妹になった。
その妹が突然、お城に連れ戻されて酷く寂しかった。
姉がお城に働き行き、タマンサが病に倒れて大変だったけど、色々な人が助けにやって来てくれた。
ミケラも時々帰ってくるようになったし、マオが家族の一員になり、ゆいもやって来た。
前より賑やかになったのだ。
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