ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 61
「サウの所から帰ってくる途中で、サビエラに会ったのよ」
魔道研の職員も通用門は使っているので、そう言う事もあるだろう。
「それでゆいの事を聞かれてさ、あの子も真面目よね」
自分の所で引き取ると宣言した後に、タマンサが横からさらっていったので、サビエラの性格からして気になって仕方なかったのだろう。
「それで、ここに着の身着のままで来たんだろうから服を買うって言い出して、流石に悪いから断ったんだけど、どうしてもと言って寝間着を買う事になってね」
それで二人でゆいの寝間着を、買ってきたという事だ。
勿論、金の出所はサビエラだ。
「そう、サビエラが・・・」
ロレッタは悪い事したかなと、心の中で謝る。
あの時は、天使でテンション上がっていて自分を止める事が出来なかったのだ。
流石、タマンサの娘である。
「今度お城で会ったら、お礼を言っていくわ」
「それより家に招待したら?タマーリンから、サビエラにお料理教えて上げてって言われたのよね・・・わたしにじゃないわよ」
タマンサの料理は、取り敢えず食べられる程度なので、人に教える程の腕ではない。
「お母さんに料理教えてなんていう人がいたら、ミケラの権威を使ってでもわたしが止めるわ」
酷い言い草だ。
「ちょっと、それお母さんに失礼だと思わない?」
タマンサが頬を膨らませたが、
「ぜんぜん、子供の頃からお母さんお料理食べてきたから言えるのよ。わたしが料理に燃えたのも、もっとましなモノを食べたかったからよ」
墓穴を掘っただけだった。
「あっ・・・」
突然ゆいが声を上げえた。
「なに、ゆい?」
「あの・・・歌の・・・練習は?」
ゆいの言葉に、
「あっ、忘れてた」
素っ頓狂な声を上げるタマンサ。
「ゴメン、ゴメン・・・でもサクラーノはもう寝ちゃったし」
「歌の練習って?」
話が見えないロレッタが聞く。
「聞いて、聞いて。この子、声が凄く綺麗なのよ。流石、天使だわ」
興奮して説明するタマンサ。
母親の興奮具合に、
「本当?」
トランスロットに聞く。
「よく判んないけど、歌は上手じゃなかった」
厳しい評価に、
「う~~~」
ゆいが少しご立腹になる。
「歌は確かに下手だったけど、だから練習が必要なの。練習すれば、世界に通用する歌姫になるわ。逸材よ、わたしが保証するわ」
あまりにもタマンサが興奮するので、
「母さん落ち着いて、どうどう」
宥めるロレッタ。
「あっ、ゴメン。でもこの子の声は本物よ、本物の天使の声なの」
まだ興奮が冷めていないようだ。
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