ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 58
「それじゃあ、この子達の事は宜しくお願いね」
そう言ってタマンサは帰って行った。
「さてと、それじゃあ、昼前と同じく、厩の掃除をしてくれ」
「は~い」
二人は厩の掃除にかかる。
「さっきも言ったけど、俺のいない時は馬に近寄るなよ。危ないからな」
トランスロットとゆいは馬のいない場所の掃除をし、サウは馬の周りを掃除する。
掃除しながら、トランスロットは改めて厩の中を見回した。
馬は全部で十頭いる。
広めの柵の四カ所にそれぞれ馬が入れられており、その向かい側の狭い柵に一頭ずつ、六頭が入れられていた。
馬のいる辺りはかなり綺麗に掃除されていたが、大きな厩なのでサウ一人では手が回りきらず、他の場所はあちこちにホコリが溜まっている。
トランスロットは、長いホウキを使って溜まったホコリを履き落とし、落ちたホコリをゆいが履き取る手順で掃除が進む。
午前中、そこそこ掃除しておいたので、時計塔が四時の鐘を鳴らす頃には概ね終わっていた。
二人とも、こんな大きな場所の掃除は不慣れだったが、終わる頃には随分と様になってきていた。
「掃除はこんなモノかな」
サウは厩の中を見回して満足げに頷く。
「助かったよ、俺一人じゃ手が回らなくてな。手伝いの爺さんがいるにはいるんだけどな、最近、体調を崩し気味で来たり来なかったりだから」
サウは、ハハハと笑う。
「次は飼葉作りをやるか」
「飼葉?」
知らない言葉に、トランスロットとゆいが顔を見合わせて首を捻る。
「馬の飯だよ」
「馬の飯・・・ああ、馬のご飯の事?」
「そうそう、馬のご飯」
「お馬もご飯食べるの?」
ゆいが不思議そうに聞いてきた。
食事を必要としない天使なので、馬が食事を必要とするのが不思議でならないのだった。
「馬も生きてるからな。生きてるからには、食べなければ死んでしまうんだよ」
「そうなんだ」
それでゆいは納得したようだ。
「さてと、材料を取りに行くから一緒に来い」
「は~い」
トランスロット達はサウの後ろを付いて歩くと、麦わら束の積んであるところに連れて行かれた。
「この麦わら束がメインディッシュだ」
サウが嬉しそうに説明してくれる。
「お前ら、麦わら束をこっちに持ってこい」
言われて、トランスロットが二束、ゆいが一束、抱えてサウの所に運ぶ。
「ご苦労さん、でもそれじゃあ足りないから、俺がいいと言うまで何度も運んでくれ」
「うん」
トランスロットとゆいは、麦わら束を持って何度も往復した。
その間にサウは、別の場所からにんじんや草を何種類か持ってくると、大きな包丁で、麦わら束や持ってきたにんじん達をぶつ切りにしていく。
ある程度切ると、横に置いた桶に放り込んで混ぜる。
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