ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 54
「うふふ、可愛い」
それを見てニヤニヤするタマンサ。
「厩に急ぎましょ」
「うん」
三人はお城の通用門の方に急ぐ。
「タマンサ、昨日の歌見たよ。また歌うことが有ったら必ず行くからな」
門番がタマンサの顔を見るなり、話し掛けてきた。
「ありがとう。次は何時になるか判らないけど、またお願いね」
にこやかに返事をする。
旅回りの時に、身に付けた営業スマイルなのだが、効果抜群。
門番はニヤけた顔で、タマンサ達を通してくれた。
トランスロットはやはり気恥ずかしくなって、下を俯く。
「トランスロットのお母さんて凄いね」
ゆいが話し掛けてきた。
「凄いって、何が?」
ゆいを驚かさないように、今度は落ち着いて声で聞く。
「だって、すれ違う人みんなににこやかに返事を返していて・・・わたしには無理だから」
トランスロットは、言われてみればそうだなと思った。
「ふふふ、それはね、仕事で身に付けた、いわゆる営業スマイルという奴よ」
二人の話が聞こえたらしく、タマンサが振り返って教えてくれる。
「営業スマイル?」
また知らない言葉が出てきて、ゆいは首を傾げた。
「わたしが昔は歌を歌って、あちこち回っていたのは言ったわよね」
昨日、楽屋で食事をしていた時に聞いた気がする。
「街ですれ違う人は歌を聞きに来てくれるお客さんかもしれないし、聞いてくれた人がまた聞きに来てくれるかもしれないし。声をかけて貰ったら笑顔をで返事を返す、それが営業スマイルよ」
ゆいの方は、まだよく判らないという表情だった。
「不機嫌な顔をしている人と、ニコニコしている人とどっちがお話ししたいと思う?」
聞かれて、ゆいはしばらく考えてから、
「ニコニコしているナナ様。ミームさんはすぐ怒るから・・・ナナ様にだって怒るから、話し掛けるの・・・怖い」
ネビュラ・ナナとミームを引き合いに出して答えた。
「そうでしょ。だから来て欲しいお客様や、来てくれたお客様にまた来て欲しいから笑顔で返事を返すのよ。少しでもわたしの歌に、興味を持って貰いたいから」
それでようやく納得いったようで、
「そうなんだ」
ゆいはニコッと笑った。
「母さん、また歌うの?」
話の流れから、トランスロットが聞く。
「わたし一人で決められないわ。それでも、歌えれば歌いたいわね。歌を歌うのは好きだから」
その目には歌のために十歳で家出した、歌大好き少女の魂はまだ宿っていた。
「ボクも、母さんの歌大好きだよ」
「わたしも好き」
トランスロットとゆいが、目をキラキラさせてタマンサを見上げる。
「あらあら、ここにもわたしのファンが二人もいたのね。嬉しい」
タマンサが、本当に嬉しそうに笑った。
後書きです
山もなく谷もない話が続いていて、申し訳ないです。
トランスロットはナイーブば性格の上に、今回のヒロインのゆいは陰キャですから、盛り上げようが。
タマーリンやチャトーラが絡めば持って行きようもあるんだけど、この先、出る予定はないし。
唐突に天からアイディアが降ってきてくれれば・・・お願いしますベレー帽を被った神様。
因みに、タマンサが五人の子持ちになったというのは、ロレッタ、トランスロット、サクラーノ、ミケラ、マオ(生まれた順)の五人です。
ここにゆいが加わるかは今後のお楽しみということで。
ではまた来週(@^^)/~~~
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