ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 53
「あっ、でも。厩と言ってもお城勤めになるんだから、わたしも挨拶に行った方がいいのかな?」
唐突に言われて、
「判んない、サウさんには言われてないし」
サウの言葉をもう一度思い出し、親を連れてこいとは一言も言われていなかった。
「じゃあ、サウに挨拶だけしておこうか?」
「うん・・・」
トランスロットは良く判らずに返事を返す。
「マオ、わたしちょっと出かけるからサクラーノ見ていてくれない」
「良いぞ・・・と言っても、サクラーノはいつものように、お昼を食べたら寝てしまったのじゃ」
サクラーノはミケラがいないと、電池が切れでお昼からは夕方まで寝て過ごす。
武茶士がこの話を聞いたら、
「ミケラ姫って、サクラーノの非接触型充電器?」
と言っただろう。
それから、タマンサはトランスロットとゆいを伴って出かけた。
「タマンサ、夕べは楽しませて貰ったわ」
「あなたがこんなに歌が上手だったなんて、また聞かせて頂戴ね」
「タマンサさん、踊り凄かったです」
あちこちから声をかけられる。
タマンサはその度に立ち止まって、
「ありがとう」
とにこやかに笑って、手を振るのだった。
トランスロットは、そんな母親の姿を見て、少し気恥ずかしくなる。
「どうしたの?」
ゆいが心配そうに聞いてきた。
「な、なんでもない」
ちょっとぶっきらぼうに言い放つと、トランスロットはそっぽを向く。
「わ・・・わたし・・・何かした?」
ゆいが泣きそうな顔で、トランスロットを見上げる。
自分が、怒らせたと思ってしまったのだ。
「ち、違うよ・・・ゆいは何もしてないから」
慌てるトランスロット。
「ぼ、ボクは、怒っていないから」
「ホント?」
「ホント、ホント」
アワアワするトランスロット。
「トランスロット、女の子をいじめちゃダメでしょ」
タマンサに振り返って言われ、
「ぼ、ボクはいじめてなんていないよ」
強めに言い返して、その声にゆいがまた怯える。
「ほら、大きい声出すからゆいが怯えてるじゃない」
「あっ・・・ゴメン。大きい声怖い?」
「う、うん・・・ちょっと」
ミームにしょっちゅう大きい声で怒られていたので、トラウマになっていたのだ。
怒る時に大きい声を出すのは最初だけだったが、それでも大きい声を出されるとビクッとしてしまう。
「それで、なんでゆいを泣かせたの?」
聞かれて、
「泣かせてないよ、本当だよ」
ゆいを泣かせる気なんて、トランスロットにはこれっぽっちもなかったのだ。
「・・・でも、ゴメン」
そんな気がなくても、ゆいが泣きそうになったのは確かだから、素直に謝る。
「・・・あっ・・・・・・」
なんて返事を返せばいいか判らず、ゆいは口ごもったが、そのままトランスロットに寄り添う。
トランスロットの方もどう対応していいか判らず、結局、ミケラ達にするようにゆいの頭を撫でた。
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