ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 52
トランスロットとゆいは、タマンサにお城の厩で働く許可を貰うために家に戻った。
「ただいま」
家に入ると、タマンサが食事の仕度をしていた。
作ったのはロレッタで、暖めるだけなのだが。
タマンサ曰く、
「暖めるのだって、コツが要るのよ」
だそうだが。
「お帰り、お昼にするから座りなさい」
既にサクラーノと、今日まで倉庫の仕事のお休みを貰っているマオが席に着いていた。
「トランスロット、朝からどこに行っておったのじゃ?」
朝、ミケラ達と一緒に出かけたのは知っていたが、どこに出かけたまでは知らなかったからだ。
「サウさんのところ」
聞き覚えのない名前に、マオは首を傾げる。
「旅行の時、馬車の御者をしていてくれた・・・」
「おおっ、あやつか」
言われて、旅行の時に横を飛んで話をしたのを思い出す。
「サウか、懐かしいわね」
タマンサが懐かしそうにその名を呼ぶ。
「知っているの?」
「知っていると言えば知ってるけど・・・」
口ごもるタマンサ。
「・・・まっいいか」
覚悟を決めたようだ。
「わたしがトランスロットぐらいの時に、家出したのは知ってるでしょ?」
お妃様が旅先の宿にタマンサの両親を連れて来た時に、その話は聞いている。
「うん」
「まっ、その時に潜り込んだ馬車の御者見習いをしていたのがサウだったのよ」
そこで一旦話を切ってから、
「馬車に荷物を積み込むのも見習いの仕事の内だったんだけど、わたしが潜り込んでいるのに気がつかなかったって、他の見習いと一緒にすごく怒られてたわね」
あははと笑うタマンサ。
それから少し真面目な顔をして、
「トランスロット、母さんみたいになっちゃダメよ」
と言いつつ、ニコッと笑う。
五人の子持ちとなったにしては、軽いタマンサだった。
「母さん、話が有るんだけど」
食事が終わった後、トランスロットは思い切ってタマンサに声をかける。
「どうしたの、そんなに真面目な顔して」
「ボク、サウさんのところで働きたいんだ・・・ゆいも一緒に」
タマンサの目を見て、しっかりした口調で伝える。
「いいわよ、頑張りなさい」
あっさりと承諾された。
「いいの?」
少しは反対されると思っていたのに、拍子抜けだ。
「いいわよ、本気だというのは目を見れば判るわ。わたしはなんと言ったって、あなたのお母さんなんだから」
軽くウィンクする。
「怒らないの?」
「なんで怒るの?トランスロットが本気でやろうとしてるんだったら、お母さん応援しちゃよ」
それを聞いて、トランスロットは嬉しそうに笑う。
「ありがとう、母さん」
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