ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 50
「大きいね」
感動とも驚きとも付かない表情で見上げるゆいを、サウは微笑ましく見ていた。
ゆいの頭が馬の胴の半ばくらいの高さなので、近くで見るとかなり首を上に向けなければならない。
その様子が可愛く見えたからだ。
「そうだ、ちょっと待ってな」
サウは慌ただしく厩を出て行き、しばらくして厩の入り口まで戻ってきた。
「準備出来たから、こっちへおいで」
ゆいとトランスロットを呼び寄せる。
二人が厩の外へ出ると、そこには小さな馬車が置かれていた。
御者台の他には、席が二つしか無い、本当に小さな馬車だ。
「さっ、乗った乗った」
言われてトランスロットが先に馬車に乗ると、ゆいを引っ張り上げて席に座る。
「この馬車は?」
馬車そのものが王都では珍しい。
王都内に馬は入れない、馬車も入り口の前でなので、街の外へ出る住人以外は目にすることはない。
因みに入り口から倉庫までの荷物の移動は、力関係のタレントを持つケットシー達が馬の代わりに荷車を運び入れている。
力持ちのマオとクロも、週に一回程度、荷車を引くのに駆り出されていたのだった。
「こいつか?こいつは城内の連絡用の馬車だよ」
城の敷地はかなり広い、端から端までとなると、歩くのは結構大変なのだ。
特に、離れた場所にある魔道研との連絡に主に使われている。
「それじゃ、行くぞ」
サウのかけ声と共に、馬車が動き始める。
最初はゆっくりだったが、次第に早くなる。
「凄い、速い」
ゆいが驚きの声を上げる。
ゆいは人間が走るより速く飛べるが、それ以上の速さで馬車は走っていて、そんな速さは初めての経験だった。
「もっと速く走らせられるけどな、ここじゃこれ以上出すと危ないから」
いくら広いとは言え、城の敷地内でそう無茶も出来ない。
「これでいい、あははははは」
ゆいが楽しそうに笑う。
そんなゆいを初めて見て、トランスロットは驚いたが、
「あははははは」
結局、ゆいと二人で笑ってしまっていた。
「さてと、楽しかったか?」
馬車を止めてサウが御者台から振り返る。
「うん、とっても」
満面の笑顔でトランスロットとゆいは返事をした。
「馬って速いんだね」
人見知りのゆいが、すっかりサウに心を許していた。
「わはははは」
嬉しそうに笑うサウ。
「もっと速くだって走れるぞ、ここじゃ狭くてスピード出せないから仕方ないけどな」
もっと速く走れるという言葉に、ゆいの目が輝いた。
「もっと速く走れるの?」
「おおともよ、馬の全力はこんなもんじゃ無いからな」
「走って、走って」
ゆいがせがむ。
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