ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 46
ゆいはクッキーを食べ終わり、冷まして貰ったお茶を飲んでほっと一息つく。
「もういい?」
ロレッタに聞かれ頷く。
「うふふふふ、待ってたわよ」
ロレッタの目がキラキラと輝き始める。
流石、タマンサの娘でミケラ達の姉である、好奇心が爆発した時の行動はほぼ同じだ。
「ねっ、ねっ、もう一度、翼出して」
ロレッタにせがまれて、ゆいは立ち上がると翼を出す。
「おおっ」
いつの間にかミケラとサクラーノもやって来ていて、キラキラする目でゆいを見上げていた。
「飛んで、飛んで」
ミケラがせがむ。
せがまれるままにゆいは、翼をはためかせて宙に浮いた。
翼がはためく都度に、羽からキラキラした光が散り、なお一層神々しさが増す。
ミケラとサクラーノが、その散ったキラキラを掴もうとしたが、なかなか掴むことが出来ない。
「掴めないね」
「掴めない」
二人は手を伸ばし、何度もピョンピョン跳ねてやっと掴むことが出来た。
「やった」
「掴んだ」
掴んだのは二人同時だった。
二人は握った拳をお互いに見せるようにしてから、
「せーの」
で同時に開く。
しかし、開いた手の中には何も無かった。
「あれ?」
「ないよ」
首を捻る二人。
その様子は、まるで本当の双子のように息がぴったりだった。
「それは光だから掴めないの」
ゆいが上から声をかける。
「そうなの?」
「そうなんだ」
がっかりする二人。
そのがっかり感が伝わってきてゆいは、
「ちょっと待っていてね」
翼を何度も大きく羽ばたかせた。
何度目かに、翼から何枚か羽が抜けて宙を舞う。
その羽をゆいは掴むと、
「上げる」
ミケラ達に差し出す。
「ありがとう」
羽を一枚ずつ貰ってニコニコな二人。
その横でロレッタが、
「わたしにも」
と言う目でゆいを見ていた。
「ど、どうぞ」
おずおずと渡すゆい。
心は開きかけているが、まだ前途多難なようだ。
「悪いけど、もう一枚お願い出来る。絶対に欲しがるから」
誰とは言わなかったが、間違いなくタマンサの事だろう。
「は、はい」
慌ててもう一枚渡す。
ゆいの手の中にはまだ二枚羽が残っていた。
どうしようと困ったゆいと、黒妙の目が合った。
「ひっ」
小さい悲鳴を上げて、トランスロットの後ろに隠れるゆい。
それからおずおずと、羽を持った手だけがトランスロットの後ろから出され、
「ど、どうぞ・・・」
か細い声が聞こえた。
「黒妙、ゆいが羽を上げるって」
トラスロットが代わりに黒妙に伝えた。
黒妙は白妙の方を見る。
「貰ってきたら・・・ついでにわたしの分もお願い」
「うん、姉ちゃんの分も貰ってくるよ」
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