ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 44
「う~~ん、もう少しで秋だから」
「今度の春だね」
「春?」
「そうね、春になったらミケラ様と一緒に行こうね」
白妙が微笑む。
「ホントにホント?」
「おうよ、約束だ」
黒妙がサクラーノの手をしっかり掴む。
こうして、春にミケラ達が忍びの里に行くことが決まった。
「お茶煎れたから、カップとお皿を並べるのを手伝って」
ロレッタが声をかけると、
「手伝います」
「手伝うよ」
白妙と黒妙が素早く動く。
「予も手伝うのじゃ」
白妙達がカップを並べ、マオはお皿をそれぞれの前に並べる。
「台の上のお茶請け、誰かお願い」
ロレッタはお茶を注いで回っている間に、白妙達がお茶請けをキッチンの台の上から持ってきて、それぞれのお皿の上に分けていく。
「これは何?」
目の前のカップに注がれたお茶を、ゆいは不思議そうに見つめる。
「それは飲むモノよ、熱いから気をつけてね」
「飲むモノ?飲むモノってキンキンに冷たいんじゃ?」
更に首を傾げるゆい。
ネビュラ・ナナが天使達に飲ませてくれた飲みモノは、黒くて泡が出ていてキンキンに冷えていた。
ネビュラ・ナナ曰く、
「これはキンキンい冷えているのを、飲むのがマナーなのよ」
と行って天使達に手渡していた。
後でミームに、
「若い天使達に、変なことを吹き込まないで下さい」
と怒られていたが。
「こうして飲むんだよ」
隣のトランスロットが自分のカップを持って、フーフーとカップに息を吹きかける。
「こうするの?」
トランスロット真似て、ゆいもカップをフーフーと吹く。
「一杯息を吹きかけたら、今度はこうやって少し飲むんだよ。いっぺんに飲むと熱いからね」
「うん」
ゆいはトランスロットの真似をして、カップに口を付ける。
「そうそう、それでゆっくりと傾けて口の中に少し入れて」
言われるままにゆいはカップを傾け、カップの中のお茶を口に入れる。
「あつ!」
ゆいは吹き出しかけて、ギリギリのところで堪えた。
「熱いのは苦手?」
涙目で口を押さえながらゆいは頷いた。
「待っていて、水を持ってくるから」
ロレッタは台所から水差しを持ってくると、ゆいのカップに水を注いだ。
「これで飲みやすくなったと思う、飲んでみて」
ゆいは恐る恐るカップを口にして、お茶を口の中に入れた。
熱かったが、我慢出来ない熱さではない。
「こ、これなら・・・大丈夫で・・・す」
「そう、良かったわ」
ゆいの返事を聞いてロレッタはニコッと微笑む。
「それじゃ、今度はお茶請けを食べてみて」
「お茶請け?」
知らない言葉に再び首を傾げるゆい。
「えっと、お菓子・・・お菓子なら判るでしょ」
お菓子と聞いてゆいの目が輝いた。
「これ、お菓子なんですか?」
目の前にあるお茶請けは、ゆいの知っているお菓子とは別物だった。
ゆいの知っているお菓子は、包みに入った細長い薄茶色のサクサクのモノや、褐色の笠を被った小さいキノコやタケノコの形をしたものだったのだ。
目の前にあるのは、それとは違う薄茶色の丸くて平べったいお菓子。
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