ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 41
居間をゆいは見回す。
建物はネビュラ・ナナの住まい以外は知らないので、初めて入った地上の家の中に、興味津々で見回す。
トランスロットの袖を引っ張り、
「あれは何?」
「あれは竈だよ」
「竈?何に使うの?」
「あそこで火を起こして、料理を作るんだよ」
「料理?」
食事を食べる必要がない天使なので、料理はする必要もない。
料理など無縁の生活をしていたので、知らないのは当然だろう。
「食べ物のことだよ」
食べ物言う言葉に、ゆいはようやく理解出来た。
「食べ物なら知ってる、ナナ様が甘いお菓子を時々くれるの」
ネビュラ・ナナは異世界から仕入れてきたお菓子を、天使達に振る舞っていたのだ。
それからゆいは、トランスロットを連れ回して、
「あれは何?これは何?」
と聞きまくった。
最初はなんとか頑張って答えていたトランスロットだったが、次第にロレッタに助けを求めるように顔を向けることが増えていく。
やれやれと肩を竦めて、ロレッタはトランスロットに助け船を出す。
「ちょっと休まない、トランスロットが疲れちゃうわ」
ゆいはトランスロットを見上げた。
「うん、休もうよ」
トランスロットに言われて、
「う、うん」
素直に返事をしたが、ロレッタと目が合ってトランスロットの腕をぎゅっと掴む。
まだトランスロットと子供達以外は苦手なようだ。
「それじゃあ、座って」
ミケラ達は自分達の席に座り、ゆいはトランスロットの隣に座った。
「ゆいって言うの?本当に天使?」
ロレッタはワクワクした顔でゆいに尋ねた。
天使好きは本当らしい。
「こやつは本物の天使じゃ、予の心の声がそう告げておるのじゃ」
マオが力説し、
「天使さんだよね、お羽が白くて綺麗だった」
「真っ白な羽が、ブワッと広がって綺麗だった」
ミケラとサクラーノが身振り入りで一生懸命に説明する。
「本当に天使のようね」
ニコッと微笑むロレッタ。
「それで、ゆいという名前はどう言う意味?わたしのロレッタは、人間の国の有名宝飾店の名前から付けたって、母さんが言っていたわ」
ちょっと目を輝かせて語るロレッタ。
ロレッタも、宝飾には興味がある普通の女子なのだ。
「ボクの名前は、物語に出てくる荷馬車の騎士と呼ばれる騎士の名前だって」
トランスロットは、少し自慢げに話す。
騎士に憧れがあるのが判る。
「予の名前は、ミケラが予が魔王だからマオと付けたのじゃ」
どうだ凄いだろうと言わんばかりに、マオは胸を張る。
(Copyright2024-© 入沙界南兎)