ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 40
「どうする、ゆい?」
トランスロットに聞かれて、
「・・・」
黙り込むゆい。
選択肢は少ない、その中から選ばなければならない。
「ナナ様は勇者を頼れって言ったし・・・サビエラはちょっと怖いし・・・子供達のことも頼まれてるし・・・」
ぐるぐると頭の中で考えが回り、混乱して挙動が怪しくなり、ついにはふらっとよろめいてしまう。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
慌ててタマンサが飛び出して、ゆいの身体を支える。
「だ、だいじょう・・・ぶ・・・です」
「無理しちゃダメ」
タマンサがぎゅっと抱き締めてくれた。
「暖かい、ナナ様みたいだ」
ネビュラ・ナナに抱き締められたことは無いが、抱き締められたらこんな感じなんだろうなとゆいは想像した。
天使としてはあまり優秀ではなく、ミームに怒られることが多かったゆいを、いつもネビュラ・ナナが庇ってくれ、後で慰めてもくれた。
優しくされると、ネビュラ・ナナと重ねてしまうのだ。
タマンサにネビュラ・ナナを重ねたゆいは、
「・・・お、お願い・・・します・・・」
小さく頭を下げた。
それを聞いて、ミケラとサクラーノとタマンサの顔がぱっと明るくなる。
「やったぁ!」
飛び上がって喜ぶ三人。
ロレッタもこっそりガッツポーズをしたのを、気がついたのはモモエルだけだった。
「やっぱり母娘ですね」
クスッと笑う。
家の中ではしっかり者のお姉ちゃんなのだが、外へ出るとやっぱりタマンサの娘のロレッタなのでありました。
「舞台の片付けは魔道研でしますから、みなさんはお家に帰って下さい」
モモエルがみなに帰宅を勧めたが、
「わたしは残るわ、一応座長だから最後までいないと」
タマンサが残ることを主張する。
若い頃に旅公演をしていて、座長は最期まで見届けるモノだというのが身についているのだった。
「でも」
モモエルは納得出来なさそうだが、
「いいから、いいから」
と押し切られてしまう。
「じゃあ、ロレッタ。この子達のことをお願いね」
「わかったわ」
ロレッタは振り向くと、目の前にトランスロット、ゆい、マオ、ミケラ、サクラーノが揃っていた。
「それじゃあ、家に帰るわよ」
「は~い」
ゆいを除いて子供達が元気に返事をする。
先頭に立って、ロレッタは夜の王都を家路についた。
「さあ、ここがこれからあなたの家よ」
ゆいを家に招き入れる。
入り口から直ぐが居間兼食堂になっていて、小さいパーティくらいなら開けそうな広さがある。
真ん中に家族のための大きめのテーブルがあり、隅にお客様用の小さいテーブルが置かれていた。
このテーブルは以前、タマーリンとモモエルとキティーが来た後から置かれるようになり、現在はもっぱら白妙と黒妙が使っていた。
他には窓とキッチン、他の部屋に続く通路がある。
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