ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 37
「天使、あなた天使なの?」
着替えの最中のあられもに格好で、タマンサはカーテンから飛び出した。
目はミケラと同じくらいにキラキラ輝いている。
「タマンサさん、ダメです」
その後を、モモエルが大きい布を持って追いかけ、タマンサの頭から被せた。
「おおっ、天使だ」
モモエルの後から着替えの途中のミケラが、目をキラキラさせて走って来る。
二人の表情を見てモモエルは、
「二人はやっぱり親子です、血は繋がっていなくても本当の親子です」
心の底から思った。
ミケラが産まれた頃から四歳になる頃まで、一家の生活を支える役目をしてきた。
四年近く一家見てきた、タマンサとミケラを見てきた。
幸せな二人の顔を見てきた。
ミケラがいつか王宮に戻る身だというのは知っていたけれど、いつまでも幸せが続いて欲しいと思っていた。
魔法道具研究所の所長を拝命し、倉庫の女将さんに後を託したが、職員に様子を見に行かせたり、自分で何度も見に行ったこともある。
しかし、運命は残酷にも一家からミケラを引き剥がしたのだ。
それにどうすることも出来ない自分を、モモエルは悲嘆した。
運命は更に一家を苦しめるかのように、タマンサは病に倒れてしまう。
その病も、突然現れたマオによって癒やされたのだが・・・
そこまで考えて、モモエルの中に何かが閃いた。
「もしかしてあの子も・・・」
天使の翼を持つ目の前の少女は、ミケラに何かをもたらすために現れたのかもしれないとモモエルは思ったのだ。
「ねえ、この子なんなの?本当に天使なの?」
タマンサがモモエルに詰め寄る。
「そ、それより先に着替えて下さい。お話はその後で」
タマンサに気圧されてタジタジになりながらも、なんとか先に着替えて貰おうと頑張るモモエル。
「まっ、いいわ・・・ミケラも先に着替えましょ」
ミケラの手を取ってカーテンの方へ連れて行こうとするが、
「え~~っ、やだ」
とミケラはぐずる。
「どうして?」
タマンサはしゃがんで、ミケラの顔を見る。
「だって」
と言いつつミケラはゆいの方を見上げた。
「あの子のことが気になるのね?」
「うん」
タマンサはゆいの方を見上げて、
「この子を着替えさせるから、待っていてくれる?」
と声をかける。
ゆいはしばし迷ったが、
「う、うん」
と小さく頷いた。
どのみち、この場に残るしかゆいには選択肢は無いのだ。
「ほら、お姉ちゃん待ってくれるって。先に着替えようね」
「ホント、ホントに待っていてくれる?」
ミケラが聞くと、
「待ってる」
と少し大きい声で返事を返すゆい。
「ほら、待っていてくれるでしょ。さっ、着替えよう」
「うん」
そのままタマンサに連れられて、ミケラはカーテンの向こうに消えた。
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