ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 35
「モモエル様に会わせて正解だったかも」
ゆいがモモエルに気を許したのを感じて、サビエラはほっとする。
「あら、わたしが女神様に?」
ゆいの発言に戸惑い驚くモモエル。
確かにモモエルは美人の部類に入るが、女神に似ていると言われて喜ぶ程、おこがましい考えは持ち合わせていないからだ。
「あ、あの・・・顔が似てるとか・・・じゃなくて・・・笑った感じが・・・ナナ様の雰囲気に似ているから・・・」
少し頬を染め俯き、ゆいは説明した。
「うふふふ、ありがとう。笑った感じが・・・」
顔には出さないが喜ぶモモエル。
笑った雰囲気が女神に似ている、その方がモモエルは嬉しかったのだ。
「そうだ、あなたこの街に一人で来たんでしょ?泊まる場所とか決まっているの?」
「泊まる場所?」
意味が判らず、ゆいは首を傾げた。
ネビュラ・ナナの住む世界には雨風は無いので、天使達は好きな場所で眠っていたので宿泊という概念を持ち合わせていないのだ。
「これから住む場所のことだよ」
トランスロットが説明をする。
そちらはここに来る前に、ミームに説明されていたので頷く。
「す、住む場所なら、ゆ、勇者が来ていいって・・・い、言ってました」
少しつかえながらも、いつもよりハキハキ答えるゆい。
ゆいの中で、トランスロットとモモエルは、特別な存在になったのだ。
「勇者って無茶士のところね、マオと一緒に暮らしていたからいいかな」
「異議あり!」
それに異議を唱えたのはサビエラだった。
因みに、ひとさし指を突きつけたりはしていない。
「女の子と無茶士さんが一緒に暮らすなんて、絶対にダメです!」
かなりの剣幕だ。
「前はマオと暮らしていたから・・・」
モモエルが宥めるように言ったが、
「無茶士さんは男の人ですよ、女の子の扱いなんて全然判ってないですよ。マオの服だって、わたしが全部揃えたんですから」
だがサビエラは止まらない。
「確かに、武茶士じゃ女の子の扱いは無理かも。それに、これから勇者として活躍して貰うことが増えて、家に帰れないこともあるし・・・」
「そ、そうなんですか?」
モモエルから初耳な話を聞かされて、サビエラは驚く。
「本当に勇者として相応しい働きをしたから、それに見合う責任も負うことになったのよ」
サビエラは溜め息をつく。
砦で少し距離を縮められたと思ったのに、無茶士が出かける用事が増えると、会う機会が減ってしまう。
「そんな」
サビエラはがっくりと肩を落とす。
「でも、サビエラの言うことも確かにあるかも、武茶士に女の子の世話は無理よね」
モモエルもサビエラの意見に納得したようだ。
「とは言え、見ず知らずの家に預かって貰うというわけにもいかないし」
モモエルも考えあぐねて腕を組んで、ウンウンと頭を捻る。
「あの、泊まるだけならわたしが預かります」
サビエラが手を上げた。
「昼間は仕事があるから無理ですが、昼間はどこかに・・・」
サビエラはモモエルとゆいを交互に見る。
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