ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 34
「モモエル様」
サビエラはモモエルを見つけると事情を話す。
「えっ、天使!」
食い付いたのはモモエルと一緒にいたキティーだ。
「本当にあなた天使?」
キラキラした目でゆいの所まで来て、話し掛ける。
「ひっ」
初めて会った相手に話し掛けられ、ゆいは小さな悲鳴を上げてトランスロットの後ろに隠れた。
「えっ、なに?わたし何かした?」
ゆいの反応に戸惑うキティー。
「キティーゴメン、この子こういう子なんだ。初めての人と話すのが苦手というか、怖いというか・・・」
要領を得ないトランスロットの説明だったが、それだけでキティーは理解した。
魔道研には色々な性格の研究者がいて、中には他人と話すのが苦手な研究者もいるのだ。
ニコッと笑って、
「ゴメンね、いきなり話し掛けて。わたしはキティーって言うの、あなたのお名前は?」
子供に話し掛けるように優しく話す。
まずはお互いの名前を知ること、経験から学んだことなのだ。
「わ、わたしは・・・ゆい・・・と言います・・・」
相変わらず、最後の方は消えそうな小さな声で答えた。
「天使って本当?」
「うん」
小さく頷くゆい。
「何しに来たの?」
「えっと、あの・・・」
立て続けに質問されて、ゆいは戸惑いトランスロットの方を見上げた。
「キティー、そんなに質問したら、その子が困ってるでしょ」
トランスロットより、先に口を開いたのはモモエルだった。
「ゴメンさいね、お話苦手なのよね?」
屈んでゆいの目の高さに合わせると、モモエルは優しく微笑む。
「うん、一度に沢山話すのは・・・」
モモエルの微笑みに、ゆいはネビュラ・ナナの微笑みに見えた。
ゆいの中で、何かが弾けた。
モモエルの目を見つめ、
「わたしゆいと言います、我が神ネビュラ・ナナの命により地上に修行に来ました」
しっかりとした口調で自己紹介をする。
これにはトランスロットとサビエラの方が驚いた。
さっきまでの怯えた様子が微塵も感じられなかったからだ。
「ゆ、ゆい・・・」
トランスロットが話し掛けると、はっと我に返ったゆいは、大慌てでトランスロットの背中に隠れてしまう。
「一瞬にして元に戻った」
苦笑するサビエラ。
それからトランスロットの背中越しに、モモエルの方をチラチラと見る。
「どうしたの?」
モモエルがもう一度話し掛けると、
「な、ナナ様に笑った顔が・・・似てるから」
ちょっと頬を染め、戸惑いながら笑うゆい。
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