ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 32
「無茶士さん、マオは見つかりましたか?」
サビエラもやって来た。
無茶士を探しに来たようだ。
「サビエラさん、お、俺に何か用事ですか?」
武茶士はちょっと照れ気味に返事をした。
「マオを探しに行ったまま、いつまでも帰ってこないから探しに来たんです。また、道に迷っていないかと思って・・・」
道に迷っていないかの部分は小声で、武茶士に聞こえる程度の声で言った。
「す、すみません。あははは・・・ちょっと予想外な事があって・・・」
「予想外の事?」
不思議そうな顔でサビエラは無茶士の顔を見上げる。
「あの、ですね・・・」
サビエラに顔を見上げられ、少し頬を染めながら視線を逸らす武茶士。
「あそこにいる・・・トランスロットの後ろの子、あの子は俺が神様のところに呼ばれた時にいた子で、天使なんですよ」
「天使?」
サビエラはゆいを見た。
「天使ですか、そうですか」
反応が淡泊だったので、逆に武茶士の方が驚く。
「なんかあまり驚かないですね」
「う~ん・・・最近、色々な事がありすぎて馴れちゃったのかも」
サビエラは小さく舌を出す。
王都に勇者の無茶士がやって来て、魔道研に異世界の知識をもたらしてくれたというのは確かに驚きだった。
それで魔道研が活気づいたのだから、それは良しとする。
武茶士を追うように魔王のマオが現れた。
サビエラは見てないが、聞いた話では最初、街に来たマオは闇の巨人だったそうだ。
サビエラが驚いたのは、その後の始まった鬼ごっこでのマオとクロの空中バトル。
魔法無しで空を飛ぶだけでも凄いのに、空中での駆け引きは手に汗握った。
あんなモノは、もう二度と見られないだろう。
聞けばクロの方もドラゴンが人に変身していたとか、本当に驚きの連続だ。
挙げ句の果てに、砦で魔獣数匹に襲われかけた事だ。
タマーリンに貰った防御の指輪の力も尽きかけ、絶体絶命のピンチだった。
武茶士の助けに来るのがもう少し遅かったら、どうなっていたか判らない。
それに比べたら、天使なんて可愛いものだ。
「そうだ、マオをタマンサさんが呼んでいたんだった」
自分の用事を思い出すサビエラ。
「あっ、そうだった。俺もマオを呼びに来たんだった」
サビエラと共にマオの方を向き、
「マオ、タマンサさんが呼んでるから行こう」
言われて、マオは首を捻った。
タマンサは舞台で歌っている最中、それなのに呼んでいるとは・・・
「今、舞台で歌っているのに、どうやって予を呼んだのじゃ?」
疑問を口にした。
(Copyright2024-© 入沙界南兎)