ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 29
「勇者!勇者って確か武茶士というあのケットシーの?」
勇者に反応するゆい。
「おおっ、武茶士を知っておるのか?」
「つい最近、ナナ様がお住まいにお呼びになっていたわ」
マオはしばし考えて、
「そお言えば、武茶士も神様に呼ばれたと言っておったな。何を与太話をと思っておったが、与太話ではなかったのか」
唸るマオ。
「マオ、タマンサさんが探していたぞ」
そこへ武茶士がやって来た。
「あれ、君は確か神様のところにいた・・・」
ゆいに気がつき声をかける。
「ひっ」
無茶士にいきなり話し掛けられて、ゆいは一瞬でトランスロットの後ろに隠れる。
「ははは、相変わらずだね」
武茶士は苦笑いをする。
「こやつを知っておるのか?」
「ああ、この前神様のところに呼ばれた時にコーラを運んできてくれたんだけど、コーラを置いたら逃げるように走っていなくなってさ」
遠い思い出を思い出すような表情で、武茶士はゆいを見た。
「ほう、本当にこやつは天使なのじゃな?」
マオに疑いの目で見られたのが悔しかったのか、
「わたし、本当に天使だから・・・よく見ていなさい」
純白の翼を広げ、宙に浮く。
「おおっ、確かに天使じゃ」
マオは天使の羽を見た記憶はないはずなのに、確かに天使だと確信した。
これも以前の魔王の記憶の影響なのだろう。
マオの反応に満足して、ゆいはトランスロットの後ろに降りた。
「その天使が、なんでここにおるのじゃ」
「確かに、女神様のお付きがなんでここに居るのか気になる」
武茶士も気になっていることを口にした。
「そ、それは・・・」
言い淀むゆい。
地上に降りてくる少し前の話だった。
「ナナ様、お呼びにより参りました」
ここしばらく、魔王にかまけてネビュラ・ナナがあまり遊んでくれなかったので、魔王がいなくなった今、遊びの誘いかと期待して来たのだ。
だが呼ばれたのが自分一人、しかもミームがネビュラ・ナナの横に立っているたので嫌な予感がした。
ネビュラ・ナナとの遊びの相手で呼ばれたのなら、他の若い天使がいるはずなので、自分一人だけということはないし、そもそもミームもいない。
「あなたを此所に呼んだ理由は、先日、いらしたお客様への態度ですよゆい」
ミームが口を開く。
これで、嫌な予感は確定だ。
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