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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 25

 天使は路地に積んである木の箱の上に降り立った。

「ゆい様降臨、地上の者どもよ、崇高なるゆい様が地上に降りたことを泣いて感謝するが良い、わはははははは」

 積まれた木の箱の上で、仁王立ちになり高笑いする。

 それは紛れもなく、ネビュラ・ナナに仕えていた人見知りの天使のゆいだ。



 高笑いしているゆいは、トランスロットが見上げているのに気がつく。

「うひゃあぁぁ」

 変な悲鳴を上げて木の箱から飛び降りたゆいは、そのまま身を縮めて木の箱の影に隠れてしまう。

 恐る恐る箱の影から顔を出し、トランスロット目が合うと、

「うひゃ」

 再び変な悲鳴を上げて顔を引っ込める。

 そんなことを何度か繰り返した後、ようやく覚悟が決まったのか、

「い、今のを見た?」

 とトランスロットに聞く。

「うん」



 トランスロットの返事を聞いて、ゆいの顔がみるみる赤くなっていく。

「忘れて、今のは無かったことにして」

 木箱の影から走って来ると、ゆいはトランスロットの手を取り懇願した。

「いきなり忘れろって言われても無理だよ」

 人の頭はそんなに都合よくは出来ていない、トランスロットはケットシーだが。

 猫は意外と記憶力はいいのだ。

 特にびっくりしたことはよく覚えている。



「ううっ」

 ゆいの目から涙が溢れそうになり、慌てるトランスロット。

「言わない、誰にも言わないから」

「ほんと?」

「うんうん」

 何度も頷くトランスロット。

「ありがとう、ありがとう」

 感激して握っていたトランスロットの手を、更に強く握った。

「あ、あの、ちょっと痛いから離してくれる」

 言われてゆいは、慌ててトランスロットの手を離す。

「ご、ごめんなさい」

「ううん、いいよ。そんなに痛くなかったから」

 本当はそれほど痛くはなかったのだが、歳の近い女の子に手を握られて照れたのだ。



 それからゆいはトランスロットの横の樽の上に座った。

 背中の羽は座るのに邪魔だったのか、いきなり見えなくなった。

「それ、消せるんだ」

 いきなり羽が消えたので驚くトランスロット。

「・・・じゃ、邪魔な時は・・・い、いつでも消せるの・・・よ」

 落ち着いて話し方がたどたどしくなったが、なんとか話をしようとゆいは頑張った。

「へえ、マオみたいだ」

「ま、マオ?そ、それは誰?」

「君みたいに羽を出したり消したり出来る女の子だよ」

「わたしの他に、天使が来てるのかな?」

 マオは魔王で羽の色も違うのだが、ゆいは完全に勘違いをしてしまう。


                    (Copyright2024-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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