ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 23
「じゃ、次は黒妙」
「はいよ」
黒妙が前に出て、観客に向かって軽く手を上げる。
「黒妙、またうちにおいで。お菓子作って待っているから」
「任務中、お菓子ばかり食べてるんじゃないぞ」
「ミケラ様の護衛、しっかりね」
観客席のあちこちから、余興に関係ない声が上がった。
「おばちゃん、いつもお菓子ありがとう」
いつもお菓子をくれる、おばちゃんに黒妙は手を振って戻る。
「えっと次は・・・」
「よっ、お父ちゃんカッコいいよ」
観客席から声がかけられ、
「うっせ、お父ちゃんって言うな!」
と怒鳴り返し、一斉に観客達が笑う。
「静かにしろよ、妹だ、俺の双子の妹のチャトーミだ!」
その紹介に、更に観客達は笑った。
それもチャトーミが前へ出てくるまでだった。
「チャトーミ、しっかり」
「応援してるからね」
「また、手紙お願いね」
若い女性から次々と応援の声が上がる。
チャトーミは若い女性達に人気があるのだ。
「うん、頑張る」
それだけ言うとチャトーミは後ろに下がると、サクラーノ手を引いて戻ってくる。
「サクラーノ、あのおじちゃん達がサクラーノを止めるって言ってるけど、どうだ?」
サクラーノはしばしマットレスと魔道研の面子を見た後、
「本気で走っていいの?」
とチャトーラを見つめた。
「ああ、本気で走っていいぞ。全力でぶつかって問題なしだ」
「やったあ」
それを聞いてサクラーノは飛び上がって喜ぶ。
普段、本気で走ると怒られるので、本気で走っていいと言われて嬉しくて仕方ないのだ。
次はいよいよ本番だ。
「さてと、それじゃ自己紹介の順に頼むぜ。あのマットレスに向かって全力で走って行って突っ込むだけだ」
チャトーラの説明に、
「あのマットレスに全力で・・・」
レッドベルが少し引き気味になった。
「大丈夫だ、安全性は何度も確かめてある。全力で突っ込まれても俺たちがしっかり受け止める。ただ、走り出す時は手を上げて合図をくれ、いきなりだと受け止め損なうからな」
魔道研チームのリーダーが声をかけてきた。
「そ、それじゃあ」
覚悟を決めたレッドベルが走る態勢を取る。
「いきます」
手を上げて合図してから、稲妻斬の構えから全力で走った。
一歩、二歩、三歩目でマットレスに突っ込む。
ポニョン
当たった衝撃は無く、フワッと包み込まれるようでまるで痛みは無い。
「あっ、いいかも」
とつい思ってしまうレッドベル。
「わははは、どうだまるで痛くなかっただろう」
魔道研のリーダーから声をかけられ、
「はい」
と素直に答える。
(Copyright2024-© 入沙界南兎)