ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 20
「もう、ミケラはうかれ始めておる」
そう、ミケラはうかれ始めると影移動の速度が速くなるクセがある。
宴会場の最後の方など、手に負えないと逃げ出してしまいたくなる程に速くなっていた。
「これは、最後まで保つか予?」
気弱になるマオ。
キティーが後ろから声をかけてきた。
「予定より早いけど、強化魔法をかけるわね」
キティーの数少ない治療魔法以外の魔法だ。
キティーの呪文が終わると同時に、マオは少しミケラの動きが遅くなったように感じられた。
「ごめんなさい、治療魔法以外はあまり得意じゃないから」
小さな声で謝る。
「よいよい、これだけでも助かるのじゃ」
「がんばって」
キティーはそれだけしか言えなかった。
「お、追い付かぬ」
カゴ二つは無事に撒き終わり、最後のカゴになった。
ミケラはノリにノリまくっている。
足が円盤に触れた瞬間に姿が消え、一瞬で別の円盤から飛び出してくるのだ。
今までは影に落ちる瞬間にミケラの視線から飛び出してくる円盤は絞れていた。
ミケラは移動先の影をきちんと見てからでないと影移動は出来ないのだから。
それが、消えるが早すぎてミケラのどの方向を見ていたか判りにくくなってきた。
さっきも、予測した円盤の隣の円盤から飛び出してきて、かなり焦ったものだ。
「今のは、途中で落ちるのが止まったような気がするのじゃ」
ほんの一瞬の出来事だったので、確証があるわけではない。
「多分、タマーリン様だわ」
キティーの言葉に、マオも納得する。
「確かに、そんな芸当が出来るのはタマーリンくらいじゃろうな」
タマーリンのサポートがあると判ってキティーは安心したが、マオは逆に燃えたのだ。
「これは予の仕事じゃ、他の者に手間をかけさせるわけにはいかぬ!」
魔王らしからない、生真面目さ全開なマオだった。
既にキティーの世話になっているのだけれど、それはいいらしい。
紙吹雪も全て撒き終わり、ミケラはカゴをひっくり返して終わりの合図をする。
衣装の純白の翼が広がり、落ちていたミケラの身体を支える。
衣装の翼では小さすぎて本当はミケラの身体を支えるなど出来ないのだが、そこはタマーリンの魔法の出番。
舞台裾からミケラに浮遊魔法をかけ、尚且つ、風魔法を操り翼を羽ばたかせ、まるで翼で支えているように見せ、舞台の方へと移動させる。
服が光っているので、観客からは天使が羽ばたいているように見えた。
「ミケラ様天使」
「可愛い天使様だ」
「素敵ですミケラ様」
この演出は観客に大いに受けた。
タマンサが舞台から手を振って、宙を飛ぶミケラに合図を送る。
「あれ、なんかするんだったかな・・・あっ、そうだ」
ミケラは思い出して、観客に向かって両手を振った。
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