ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 19
マオの作り出した闇の円盤に消えたミケラは、空中を飛び交う円盤の一つから飛び出す。
宴会場と違い、ミケラの服が明るく光り始めていた。
夜なので観客からはっきり見えるようにするためでもあるが、舞台から離れてもマオからミケラの位置がよく見えるようにするためだ。
「ひゃっほ」
飛び出すと同時に手にしたカゴから紙吹雪を一掴み取ると、空中に撒く。
「おおっ」
観客から歓声が上がる。
撒かれた紙吹雪は金紙、銀紙で作られていたのでミケラの服が発する光でキラキラきらめきながら落ちていき、その中をミケラが落ちていってちょっとした幻想的絵面になったからだった。
光るミケラの身体はそのまま落下するが、別の円盤がミケラの足下に飛んできて、ミケラの身体はその円盤の中に消え、また別の円盤から飛び出して紙吹雪を撒く。
ただその繰り返しなのだが、ミケラがどこから飛び出すかが判らないのでわくわく感もあり、観客は喜んでいた。
マオは、円盤の操作に意識を集中していた。
「ここは広すぎるのじゃ」
宿屋の宴会場なら気にすることもなかったが、広いので円盤を広げすぎると見栄えが良くない。
マオの円盤は真っ黒なので、夜の明かりのない所での公演に不向きなのだった。
広場はそこそこ魔術灯が設置されているので明るいが、下に明かりが集中する設計なので上の補にあまり光は届かない。
ミケラが飛び出して、初めてそこに円盤があるのが判るくらいの明かりしかない。
ミケラは感覚的に影のある場所が判るらしく、落ちている最中に円盤を目で見つけてはその円盤に飛んでいるのだ。
明るい内に、一度だけ試しに飛ばして、
「あまり広げすると、ぱっと見が悪いわね。宴会場くらいの広さを意識して飛ばして」
とタマンサから言われている。
なので宴会場の時の広さを意識しながら、広場を一周するように少しずつ移動させなけらばならないのだ。
「わたしが支援するから大丈夫」
マオの緊張に気がついて、後ろからキティーが声をかけてきた。
「任せたのじゃ」
その声を頼もしく感じるマオであった。
「おっと」
今、ミケラを拾った円盤はかなり危なかった。
下は集まった住人達で溢れているので少し高度を高めに取っている。
その方が拾うのも楽なのだが、拾うのが遅れれば遅れる程、落下速度は上がるのだ。
何故だか判らないが、落ちた速度の速さでミケラは次の円盤から飛び出すので、高く飛びび出す。
ミケラが天井に頭をぶつけないように、宴会場ではかなり神経をすり減らした。
ここでは頭をぶつける心配は無いが、勢いよく飛び出されて高く飛び上がるのは心臓に良くないし、屋外では何が起きるか判らないので、あまり高く飛ばさないようにと事前に注意されてもいる。
「宴会場より神経がすり減るのじゃ」
愚痴を言いながらも、ミケラを落とさないように円盤を操作するマオ様であった。
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