ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 17
「衣装出来たの?」
足を止めたタマンサが引き返してくる。
「どうじゃ」
今出来たばかりの鎧を、早速タマンサに見せた。
「ふ~~ん、急作りにしては悪くないわね。全身、黒というのはちょっと寂しいかな?少しでいいから色が欲しいな」
「すまぬ、黒しか出せぬのじゃ」
申し訳なさそうに謝る。
「無理ならいいわよ、ならこれで行きましょう」
タマンサはあっさり了承する。
タマンサが去って行った後、マオは台詞と翼から鎧に替える練習を何度も繰り返した。
タマンサに、
「翼から鎧へ替わるのをできるだけ早く出来るようにしておいてね。それと、台詞も間違えないようにきちんと覚えておいて」
と言われたからだ。
「頑張るわね、わたしなら途中で飽きちゃうかも」
キティーは近くに有った椅子を持ってきて座り、マオの練習を見ていた。
他にする事もないからだ。
「請け負った仕事はきちんとこなす、そんな事も出来ぬのでは魔王として恥ずかしいからのう」
魔王らしからぬ生真面目さで答える。
そして、ステージの開幕を迎える事となった。
「集まってきてるね」
お妃様がステージの幕影から客席側を見る。
「ありがたいわ」
タマンサは既にステージ衣装に着替え、客席をのぞき見てやる気を滾らせていた。
「ステージの方も間に合って良かったわ」
そう言いながら後ろを振り返る。
そこには死屍累々、精も根も尽き果てた魔道研の面々がぶっ倒れていた。
「モモエル様、これっきりですからね。今日は回復魔法はかけないからそのつもりでいて下さいね」
「判ってます、判ってますよ」
キティーに回復魔法をかけて貰い、元気一杯に返事をするモモエル。
流石に倒れているみんな全員を回復出来ないので、モモエルとステージ関係者だけ回復させたのだ。
それにキティーにはまだやる事がある。
「タマーリン、ミケラ様の事はお願いするわね」
モモエルはタマーリンに声をかけた。
「任せておきなさい、わたくしがいる限りミケラ様を下に落とす事など有りえませんわ」
タマーリンが、今回はミケラの安全担当となっていた。
風魔法は得意中の得意なので、簡単な魔法なら無詠唱に近い速さで発動出来る。
それにタマーリンの簡単な魔法は、普通の魔法使いの中位魔法相当なのでこれほど心強い存在はないだろう。
「もしもの時は、渡したボタンを押して下さいな。緊急保護魔法が発動して、ミケラ様を守りますから」
モモエルにボタンを渡して念を押す。
「もっとも、そのような事、万が一、いえ兆が一、いえいえい無量大数が一有りませんけれども、お~~ほっほっほっほっ」」
タマーリンの高笑いがステージ裏にこだました。
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