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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 11

「モモエル、これに向かって話せばいいの?」

 タマンサがモモエルにマイクの使い方を聞く。

「そのまま話して貰って大丈夫です」

 返事を聞いてタマンサはマイクに向かう。

「アンコールありがとう」

 マイクに向かって叫びながらタマンサは手を振る。

 更に湧き上がる観客達。

「とても嬉しいけど、ステージの準備が必要だから・・・」

 と後ろを振り向く。



 お妃様とモモエルが何か話し合っているようだが、ガクッとモモエルが肩を落とすのが見えた。

 お妃様がやってくると、

「今夜だ、今夜までに準備するから、また来ておくれ」

 と宣言をする。

 それを聞いた、櫓を組み広場の整備をした魔道研の工匠部隊は一斉に頭を抱えた。



「モモエル様、夜までにステージ作るなんて無茶ですよ」

「きちんとしたステージ作るのは大変なんですよ、無茶言わないで下さい」

「無理、無理、無理」

 工匠部隊員がモモエルを取り囲んで一斉に苦情を言う。

「ひぇぇぇ、ごめんなさい。ごめんなさい」

 ひたすら頭を下げるモモエル。



「お前達、いつからそんなに腑抜けになった!」

 野太い声が活を入れる。

「クッロウエル様」

 声の主を見てモモエルは唖然とする。

 それはそうだろ、昨日の朝に宿で分かれたばかりのクッロウエルが王都にいるのだから。

「クッロウエル様」

「クッロウエル様だ」

 魔道研関係者に一斉に取り囲まれる。



「俺の事はいいから、お前ら仕事しろ!」

 怒鳴るクッロウエル。

「もう仕事は受けちまったんだ、あのくそ婆の無茶振りはいつもの事だろう!」

「は、はい」

 怒鳴られて蜘蛛の子を散らす様に魔道研の人間は散っていった。



「ク、クッロウエル様、どうやって王都に?}

「あの三目ちゃんだったか?あれにロープで身体くくりつけて一緒に戻ってきた」

 クッロウエルの話を聞い一瞬、思考が停止するモモエル。

 それはそうだろう、三目ちゃんは人が乗るようには作られていない。

 大量の物資を高速で運ぶ事を目的に作られているのだ。

 それにまだ試作段階なので、飛行も安定していない。

 いつ、どこで飛行能力を失うか判らないのだ。

 その三目ちゃんに、ロープで身体をくくりつけて王都まで飛んできたなど、無茶もいい話なのだ。



「がははは、身体が頑丈なのはドワーフのいい所だな」

 ドンと胸を叩くクッロウエル。

「そんな話じゃないです、三目ちゃんは今回が初めての長距離飛行だったんですよ。墜落したらどうするんですか!」

 モモエルがつい声を荒げてしまう。

 お人好しのモモエルとしては珍しい事だ。

「そう怒りなさんな。三バカ共に聞いた話では、何重にも安全装置は働いてるから、余程の事が無い限りは墜落して地面に激突する事は無いと言っておったぞ」

「もう、あの方達は・・・」

 三バカと聞いてモモエルは頭痛がしてきた。

 問題老人三人はモモエルにとって頭の痛い存在なのである。

 自由気まますぎて、お人好しのモモエルでは手に負えないのだ。

 魔道研の古株であり、知識や見識は豊富なので尊敬はされてはいるが、出来れば関わりたくないとも思われている問題老人達なのであった。


                        (Copyright2024-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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