ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 10
住民達のざわめきなど気にする事もなく、映像は始まる。
それも映像が映し出されるまでだった。
タマンサの登場シーンで、ざわめきが一瞬で静まった。
網タイツの上に膝が見える丈の、ノースリーブの真っ赤なワンピース姿のタマンサが映し出されたからだ。
顔には薄らと化粧がなされ、実年齢より遙かに若く見える。
「なに?なに?」
「あ、あれタマンサ?」
「嘘、絶対別人よ」
タマンサを知る住人から驚きの声が起きる。
それほど衝撃的な若々しさだったのだ。
だが、それもタマンサが歌い出した途端に静まる。
「綺麗な声」
「タマンサってこんな声で歌えたんだ」
「心に染み込んでくるわ」
歌声で広場にいる街の人々の心を掴だのだ。
それを見てお妃様が、
「ほら見なさい、歌姫なんて使う必要ないじゃない」
と勝ち誇ったように笑う。
歌姫はタマンサのタレント能力、特定の条件で相手を魅了してしまう力があるが、お妃様はタマンサがステージでその能力を使うのを快く思っていなかったのだ。
能力が発動していない映像で、聞いた人たちのハートを掴めるのだからお妃様の意見ももっともだと思う。
ステージ全体を使い切る躍動的なダンスと、どんなに身体を動かそうがぶれない見事な歌唱力で人々のハートをがっちりと掴むのに、さほど時間は必要としなかった。
タマンサの踊りと歌声に、観客の間から感歎の溜め息が漏れる。
やがて歌も終わりを迎え、タマンサがステージで頭を下げた所で画面が消えた。
「タマンサ~~!」
「ミケラ様~~!」
広場から幾つも声が上がり、
「ミケラ、いくわよ」
「うん」
タマンサがミケラの手を取り前に進み出ると、一緒に手を上げ愛想を振りまく。
沸き上がる歓声。
ここまでは予定通りだ。
ミケラの出し物には自信が有った、あれはミケラだからこそ出来る離れ業、側で見ていた自分もかなりワクワクした。
歌の方も観客のハートを掴む自信は充分有る。
宿屋のステージのお客の反応は良かったので、自信はかなり有った。
しかし、観客の反応を見て、
「これはまずいかも」
と感じた。
予想以上に観客の反応が高い、高すぎるのだ。
そして、タマンサの予感は直ぐに現実として現れる事となる。
「アンコール」
その声が観客の中から聞こえて、タマンサは自分の予想が当たったことを悟る。
「アンコール」
「アンコール」
アンコールの声は観客に広がり、もう止める事が出来ない。
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