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ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 9

 街の人たちは壇上の前に集まり、今か今かと待ちわびていた。

 お妃様が机の前に立つと一斉に拍手と歓声が上がる。

 お妃様は手を上げて、その声を制すると、

「みんな集まってくれてありがとう。話は聞いてると思うけど、ここに居る勇者武茶士が魔獣退治に大活躍してくれた。武茶士の活躍をみなで讃えようじゃないか」

 武茶士の方を振り向くと、

「武茶士、こちらに」

「は、はい」

 ミケラの方を向き、

「ミケラ姫、いきましょう」

 打ち合わせの通り、ミケラの手を引いて壇上の前の方へと出る。

「みんな、武茶士に盛大な拍手を」

 お妃様のよく通る声が終わると同時、一斉に拍手が沸き起こる。

「武茶士!武茶士!武茶士!」

 拍手と共に武茶士コールが響く。

「ほら、武茶士。手を上げて応じてあげな」

 お妃様に促されて手を上げる武茶士。

「うおぉぉぉぉ!」

 会場は一気に燃え上がる。

 あまりの熱狂ぶりに、ミケラが怯えるように武茶士にしがみついた。



 タマンサが素早く席を立ち、目立たないように中腰でミケラの後ろに来ると、

「大丈夫、大丈夫」

 声をかけながらミケラを後ろから抱き締める。

 タマンサに抱き締められて、ミケラは落ち着きを取り戻す。

 タマーリンが手を振りながら前に進み出て、

「これから、武茶士の活躍ぶりをわたくしが話させて頂きますわ」

 風の魔法を使い、自分の声を届ける。

 それからタマーリンは、実際に自分の目で見た武茶士の活躍ぶりを、大盛りに盛って広場にいる街の人たちを盛り上げたのだ。



 盛り上がった会場の熱気も冷め始めた頃、

「こんにちは、勇者の活躍の興奮も覚めやらないと思いますが、ここで余興をさせて頂きます」

 モモエルがマイクの前に立つ。

「余興って何をするんだ!」

 桜で入れてあるスタッフの一人が叫ぶ。

「ミケラ様の可愛い催し物ですわ」

「おおっ、それは楽しみだ」

 別の所から声が出る。

 この声もモモエルの仕込みだ。

 タマンサの助言で、急遽仕込んだのだが思ったより、街の住人の反応もいい。



「これはいける」

 タマンサがミケラの後ろから様子を見て確信する。

「ミケラ、みんなに手を振って」

「うん」

 言われるままにミケラが手を振ると、

「ミケラ様、可愛い」

「ミケラ様の催し物、楽しみです」

 仕込みでない住民からも上々の反応が返ってきた。

 タマンサはモモエルの服を引っ張って、ゴーサインを出す。

「それでは、ミケラ様の可愛い姿を堪能下さい」

 モモエルが手を上げると、魔法投影機に先日、旅館でミケラが行った余興の映像が流れ始めた。



「ミケラ様の着てる服が可愛い」

「あの飛ぶ影から影に移動するのか、流石ミケラ様だ」

「笑顔が可愛いわ」

「あの笑顔、本当に癒やされる」

 ミケラの出し物の、飛び回る影の円盤から円盤への移動は大いに盛り上り、

「おおっ」

「あ、あぶない」

 街の人たちは、いつしか画面に釘付けになって見入っていた。

「これでおしまいです」

 ミケラが無事にステージに戻った所で画面が暗くなった。

 一斉に拍手が湧き上がる。



「それではもう一つ、タマンサさんの歌と踊りもどうぞ」

 モモエルの言葉に広場がざわめく。

 タマンサが歌を歌っていたのは随分前の話であり、しかも主な活動の場が人間の国だったので、知っている者が殆どいないのだから当然だろう。

「タマンサって、ミケラ様の?」

 ミケラの育ての親だという事の方が知られているくらいだ。


後書きです


三周年記念短編の他に、ミケラがお城に連れ戻される話をぼちぼちと書いているんですが、

が、が、が・・・なんか悲惨な話にしかならない。

今まで普通に暮らしてきたのが、突然親から引き離された子供ってどう書けばいいのか判らない。

どうしてもその時のミケラの気持ち優先に書いてしまうときつい話になるし、タマンサがサクラーノと変わらないくらい愛情を注いで育てたのが問題ではあるんだけど、だからこそミケラが素直ないい子に育ったわけだし。

きついからって逃げちゃダメかな?


ではまた来週(@^^)/~~~

                        (Copyright2024-© 入沙界南兎(いさかなんと))

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