ケットシー物語 トラスロット奔(はし)る 8
「さて、そろそろ動くとしようか」
お妃様が周りに声をかける。
みなが立ち上がった。
「借りて悪かったね」
皆が座っていたのは、オープンカフェ風の食堂のテーブルだった。
「いえいえ、お妃様にはいつも食べに来て貰っていましたから、これくらいお安いご用ですよ」
店主はニコニコ笑って答えた。
出産で倒れる前は、お城から抜け出してはよくこの店に食べに来ていたのだった。
「そうかい、また寄らして貰うよ」
「はい、お待ちしています」
店主は深々と頭を下げる。
「向こうの準備は出来てるのかい?」
「はい、準備万端です」
サビエラが駆け寄ってきて、モモエルの代わりに返事をする。
「それじゃ、さっさと用事を済ませてしまおうかね」
「ミケラ、こっちへおいで」
お妃様がミケラを呼ぶ。
「は~い、お婆ちゃん」
呼ばれてニコニコ顔で側まで走って来るミケラ。
「お婆ちゃん?」
タマーリンが変なモノを見るような目でお妃様を見た。
「うるさいね、行きがかり上そうなったんだから仕方ないだろ」
お妃様がそっぽを向くが、今までミケラに距離を置かれていたのが、こうして懐かれたのは嬉しいようで少し笑っていた。
「まぁ、大叔母様がそれで宜しいのでしたらわたくしは何も申しませんわ」
タマーリンはそれ以上詮索するのは止めた。
「お婆ちゃん、ご用は何?」
ミケラが呼ばれた理由を聞く。
「ああそうだったね、悪いけどしばらくこの武茶士の横にいておくれでないかい?」
「うん、いいよ」
ミケラの返事を聞いてから武茶士が動く。
「それじゃあ、しばらくよろしくお願いしますミケラ姫」
無茶士はミケラの手を取ると、ミケラの手を引いて歩きだす。
広場にはもう多くの街の人たちが集まっていて、お妃様達が姿を現すと道を開けて通してくれた。
櫓の側に演台が用意されている。
タマンサ達は演台の後ろに用意された席に座り、サビエラの案内でお妃様、武茶士、ミケラ、タマーリンが演台に上った。
「お妃様、お話をされる時はそこの机の上のマイ・・・棒に向かって話して下さるようお願いします」
演台の上にはマイクのセットされた机が用意されているのが見える。
「あれはこの前、モモエルが話す時に使ってた奴だね」
以前、ミケラ達が鬼ごっこをした時に、モモエルが実況中継に使っていたのをお妃様も見ていたのだ。
「はい。ひゃようでございましゅ」
慣れない言葉を使い、噛みまくるサビエラ。
「いいよ、いいよ。普通に話な、その方がわたしも気が楽だから」
ふふふと笑うお妃様。
「済みません」
顔を真っ赤にして恐縮するサビエラ。
「気にしなさんな」
サビエラの肩をポンと叩いて、お妃様は机の方へ歩き出す。
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